まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『君と僕との世界再変』感想

君と僕との世界再変 (角川スニーカー文庫)

君と僕との世界再変 (角川スニーカー文庫)

ストーリー
2184年。人の価値は人間性で数値化され、それが通貨にもなり、働かずとも衣食住が保障された楽園――通称《庭国》。たった一人、数値が《0》の少年・アオは、外敵から国を守
ることで生計を立て、ただ生きるためだけの毎日を送っていた。その任務中、負傷した少女を手助けしたことでアオの日常は激変する――。起こりえないはずのテロ、それを皮切りに庭国の崩壊が始まると告げる少女。「あたしは崩壊を止める為に、今から20年後の未来から来たの。あんたも協力しなさい」荒廃未来の孤独な少女と楽園世界の無価値な少年、時空の十字路で二人の異端者が出逢う時――世界は、再変される!

第23回[春]スニーカー大賞<優秀賞>受賞作品。人の価値が数値化され人工知能によって管理された世界で少年と少女が世界の崩壊を防ぐために戦うSFボーイミーツガール。
SFだ! 遠未来モノだ! ディストピアだー! コンピュータによって人々がなんの不満もなく飼い殺されている歪みきった世界に迷い込んだ2人の異端者……うーん中二心ワクワクしちゃう!
とまあ、新人賞らしく世界設定はかなり凝っているんだけれど、最終的にただのバトルものになっちゃっていたのはちょっともったいない感じも。今後のストーリー展開次第では化けそうな作品です。


人の価値が数値化され、その数値によって人々が生かされている遠未来の世界「庭園」。一見楽園のようでいて、それは人の命に明確な順位を付けるディストピア
うーん、いいですね! 「拡散回路」に「サイファレンス」、「ヴァンダルシア」に「季節渡り」等々、SFラノベの象徴のような用語集にテンション上がっちゃいますわ。
交通事故が起きたら数値が高い方だけが保護されて生き残る……明らかにおかしな状況なのに、人々がそのおかしさに気付いていない空恐ろしさ。人工知能は人のためにあるとか言いながらも実際は人工知能に支配されている人間の愚かさ。
ごく自然に食事に抗酸化物質を入れてくる友人とか、ちょっとした場面でぞくっとするような描写があって良かったです。ただ、ほとんどアオの周辺のごく数人を描くだけで終始してしまったのが少し残念。せっかくのSF設定なので、個人的にはもっと他の一般的人々の生活も見てみたかったかなと思います。


「私掠官」として謎の化け物・エシの討伐に励むアオ。そんな彼の前に突然現れた未来の少女・モア。
モアによって庭園世界に隠された陰の部分と歪さが明かされ、そして世界の終焉が近いことを知らされる。
アオ自身に秘められた秘密や、世界を終わらせるテロリストの狙い、エシの正体など、情報を焦らしながら明かしていくのが上手いですね。まあそのせいで、1巻が終わってもまだ分からないことだらけなんだけれども。
特にアオの来歴には、おおと唸らされました。これはアツいね。アオとモアの出会いがより運命的に感じられて良いですわ。
世界の崩壊を防ぐため立ち上がった2人。果たしてテロリストの手から世界を守りきることができるのか、そしてその先には何が待っているのか。今後のお話に期待しています。


イラストは深井涼介さん。各章扉だけながら、それぞれ印象的な見開きイラストでした。
帯を外すとヴァンダルシアが咲き誇っているのがいい。ちょっとゾワッとしちゃう。


地球ってそんなに回ってたんだ……。