まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『オイレンシュピーゲル』『スプライトシュピーゲル』『テスタメントシュピーゲル』感想

オイレンシュピーゲル壱 Black & Red & White (角川スニーカー文庫)
スプライトシュピーゲルI Butterfly & Dragonfly & Honeybee (富士見ファンタジア文庫)
テスタメントシュピーゲル1 (角川スニーカー文庫)
圧巻。
旧友から「読め読め」と言われ続けて早……十数年/今見たら『オイレン』の1巻だけ2015年に読んでた/実に10年越し/旧友の方も最近やっと読了=感想ブログ(【シュピーゲル シリーズ】 感想 - 虎とラッパ)まで書いちゃって。じゃあこっちも書くかと1億年ぶりにはてブを開いてみた所存。
第一印象=文体が独特すぎて目が滑る/設定が緻密&ややこしすぎて目が回る。でもなんか読んじゃう=意味不明。
読後=途中めっちゃ観念的?/哲学的?/示唆的?/数学的? な要素が盛り盛りで正直何がなんだか分からないまま読んだ部分もあったけど結果としては異常に面白かった。俺の書いた最強のSFアクション活劇を見てくれ、超絶格好いい女の子たちを見てくれっていう作者の熱、迸るエネルギーが伝わってくるようだった。圧巻だ。

独特すぎるぞクランチ文体

なんといっても今作の最大の魅力であり最大の問題点。さっきから使ってる/とか=とかのこれ。完全に影響を受けて使っちゃってるけど全然真似できないので『オイレンシュピーゲル壱』からちょびっと引用。

隊の広報部より支給された、下着が見えそで見えない黒いミニスカとキャミ/すらりとした脚に黒いピンストライプのガータータイツ/丸い爪先(ルビ:バルーントゥ)の黒いエナメル靴――愛らしさと唯我独尊のトイプードルの風情。
ジッポライター――『A.S.A.P.』=“可能な限りさっさとやれ”(ルビ:アズ・スーン・アズ・ポッシブル)の刻印つき。

もう上の2文だけで伝わると思うけどめちゃくちゃスピーディ。アクションシーンとかになるとマジでノンノンノンストップ。勢いと喉越しだけでグイグイいけちゃう強炭酸水のよう=刺激的。ただ一方でこの文体に慣れるまでは結構キツい。これまた強炭酸水のよう=苦手な人は本当に苦手。全部追おうと思わないで適度に読み流すのがコツかも。

交差する物語/複雑さ=指数関数的上昇

近未来(といっても2016年=シリーズ当初からみれば近未来)のウィーン=ミリオポリスを舞台に、オイレンシュピーゲル組=涼月・陽炎・夕霧とスプライトシュピーゲル組=鳳・乙・雛の別組織/別部隊の2組の主人公たちが同じ時間軸で同じ事件を追っていくという構成。『テスタメント』に入るまではお互いへの登場もごくわずか、それぞれがそれぞれの組織で得た情報をもとに戦っていくという作りなので巻によっては片方だけだと何がなんだか分からないことも多々あり。なお両方読んでも分からないままに進むこともこれまた多々あり。というのも今作は設定が本当に凝っていて登場人物も組織も山のように出てくるし政治的な動きも難しければハードSFっぽい要素もてんこ盛りで伏線も張りまくりで全く理解が追いつかないというのが正直なところ。でもなんでか読み進めちゃう。分からなくても面白いから。剛腕。そして2組の主人公たちがほぼ絡まないからこそたまに邂逅した時の興奮たるやえげつない。たとえば『スプライト』4巻の涼月と鳳の通信場面とかめっちゃ上がるし乙と雛から見た涼月の格好良さたるやもう突き抜けすぎててマジで惚れそう。

善も悪も突き抜けた魅力の登場人物たち

2つの視点、2組の主人公となるとどうしてもどちらかが主、どちらかが従になりがちだけれど今作は本当に全員最高。いやごめん正直涼月だけは図抜けて格好いいけどあとは本当にみんな横一線でみんな好き。拳で語る突撃隊長/オジ好き天下無双の狙撃手/ふわふわ歌う殺人ワイヤー遊撃手とピーキーすぎるオイレン組は最初からはちゃめちゃにクールだったし、全員が飛べるスプライト組は初めのうちこそちょっとオイレン組に比べてキャラが弱いかなとか思ってたけど、最終的には頼れる危うい「ご奉仕」リーダー/一刀両断サムライ少女/敵か味方か爆弾魔とキャラ立ちしまくっててとても良かった。彼女たちを支える吹雪と冬真の最重要人物コンビも想い人のために全力で戦ってて好ましかったし、個人的には水無月がいいヤツすぎてめっちゃ好き。両組織の大人たちもみんなそれぞれの信念があって格好いいし、おじさんたちは渋いし、対して敵たちはちゃんとみんな憎らしくて嫌なやつらで、でもその裏に悲しい過去や事実とかも隠れていたりして、群像劇として非常に満足度の高い作品だった。

ストレスを溜めて一息に開放するクライマックス/そして爽やかなエンドロール

『テスタメント』でようやく両サイドの主人公たちが合流してさあどんな最高のアクションを見せてくれるのかなと意気込んでいたらどんどん悪い物事が積み重なっていって何も分からないままに絶望に突き落とされる1-2巻。失われていく記憶/倒れていく仲間たち/奪われた主導権。しかし一度どん底に落ちた我らが突撃隊長が反撃の狼煙を上げる。それまでに溜め込んだストレスを一気に撃破/破壊/粉砕/撃滅。仲間と一人また一人合流しながら――一部は裏で暗躍もしつつ。さんざん苦戦させられてきた敵たちを一人また一人打ち倒していく痛快さ/気持ちよさったらない。思わず手を握りしめて天へ打ち上げたくなるような最上級のカタルシスを見せてくれた。事件が解決してからのエンディングは、もしかしたらもう少し混沌とした――まだ全ては解決しないし悪はまたいつでも忍び寄る的な具合の――結末になるんじゃないかなとなんとなく思っていたのだけれど、予想していたよりもずっとすっきりと綺麗に、色々な物事に片を付けてくれて、非常にクリアな読後感。もちろん何もかもが上手く行って大団円という形ではないけれど、きっとこの先、少女たち少年たちの行く末は明るいんだろうなと素直に思えるエンドロールだった。


久しぶりに、本当に楽しい読書体験でした。解説とか見ながらまた読み返したいな。