まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

剣の女王と烙印の仔Ⅷ

剣の女王と烙印の仔 ? (MF文庫J)

剣の女王と烙印の仔 ? (MF文庫J)

ストーリー
“流転する生命”という最凶の力を引き摺りながら進軍する女帝アナスタシア。
帝国を脱出したジュリオとシルヴィアには死の追跡の手が伸びる。
一方、疲弊した聖都でミネルヴァは記憶と精神、全てを失ったクリスと対面するが……。



遂にやってきてしまった最終巻。一押しの作品だったので淋しいです。
巻を追うごとに盛り上がって、風呂敷がどんどん広がり続けていたので、1冊で全て片付くのか少し不安でしたが、見事に物語の幕を閉じてくれました。
もしもこれ以上続けたら畳みきれなくなっていたのかもしれません。たくさんの登場人物がそれぞれ暴れまくっているからなあ。


誰が主人公なのか本当に分からなくなってきました。1巻の頃は、主人公はクリスとミネルヴァだと自信を持って言えたのですけれど。
話が進んでいくにつれて、ジュリオ・シルヴィアも、フラン・ジルベルトも、クリスたちに全く負けていない活躍を見せてきます。
特に終盤はクリスよりもジュリオやフランの方が目立つというようなことがざらでした。
最終巻となった今回でさえそうでしたね。クリスが記憶を失っていることもあって、彼が彼自身のことばで喋っている場面すらほとんどなかったような。
もちろん、最後にはきっちりと役目を果たしてくれるのですけれども。しかし、地味といえば地味なんだなあ。
思うにこのお話は、クリスとミネルヴァの物語、ジュリオとシルヴィアの物語、フランたちの物語がそれぞれあって、それをひとつの物語のように見せていたのだと思います。なんなら、カーラの物語やアナスタシアの物語、ガレリウスの物語を加えても構いませんが。
その物語のひとつひとつに、それぞれ主人公がいて、愛する者がいて、味方がいて敵がいて、始まりがあって、終わりがあった。
登場人物にとっては自分こそが主人公であるわけですから、それは当然のことです。
でも、その物語が表に出てくるためには、その人物について深く語られなければいけない。だから多くの物語では主人公がひとりになるわけだけれど。
必ずしも長いとは言えない文章の中で、これだけのキャラたちにそれぞれ物語を与えて、全てに一応の決着をつけながらひとつにまとめるというのは、改めて凄いことだと思うのです。


圧倒的な力を持つ女王アナスタシアに率いられ、押し寄せてくるアンゴーラ軍。聖将軍の位を得たフランは、国内の戦争での傷も癒えぬまま、これに対抗します。
凄惨を極める戦いの裏で、未だに続く聖王国軍と連合国軍の確執。
ここで目を見張る活躍を見せたのは、やはりパオラでした。この子は本当に、作中の誰よりも大きく成長したよなあ。
こんな少女に、聖王国軍の騎士たちが心を動かされ、あのような行動に出たことに、知らず胸が熱くなりました。
フランの生涯最悪の作戦は、本当にろくでもない、作戦とも呼べないようなものでした。これまでも大概だったのに、まだ下があったのか……。
それでも勝ちには一歩及ばず、というところで、あの男の出番です。最後にこんなところを持って行くなんて、ずるいなあ。いいやつでした。
一方のジュリオは、文字通りの最強の敵と対峙。他でもないシルヴィアただひとりを守るため、必死に、無謀な戦いに挑むジュリオが実に格好良い。
そこでシルヴィアがまた、ジュリオ以上の格好良さを発揮してくるから困ります。彼女ももう、ただ守られているだけのお姫様ではないのですね。
そして彼らと戦ったあの人。最初から最後まで最強であり続けたこの人は、これから先どこへ行くのでしょうか。彼女の行く末だけは、全く予想もできません。
クリスとミネルヴァのふたりだけは、他の皆とはひとつ流れの違う、特別な物語を紡いでいました。
彼らの敵は神そのもので、クリスにとっては自分自身で、もう勝つとか負けるとか、そういう次元の話ではないような気がするけれど。
それでも、どんなものを敵に回しても、彼らはお互いを選び続けます。声を届けるために。約束を果たすために。


重さも、悲しみも、切なさもあったけれど、先に行った者に幸せが、残った者に未来が、ほのかに感じられる終わりでした。
しんみりしつつも、満足感でいっぱいです。ああ、面白かった。
夕仁さんのイラストも最後まで素晴らしかったです。毎度ながら、終盤の見開きにはやられました。素敵。
杉井先生、夕仁さん、ありがとうございました。またこのコンビの作品が読みたいですね。


どちらのソックスも捨てがたいけれど、冠はあった方が絶対にいいですね!