まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

偽りのドラグーンⅤ

偽りのドラグーン 5 (電撃文庫 み 6-28)

偽りのドラグーン 5 (電撃文庫 み 6-28)

  • ストーリー

レガリオン帝国軍の圧倒的優勢のまま、最終局面を迎えたセーロフ王国を巡る攻防戦。
身分を偽っていたことが暴かれ、ジャンとティアナは人々の非難の的となっていた。
衆人環視の中行われた協議で、自分こそがヴィクトルであると主張するジャンだったが……。


最終巻です。それほど長く続く話ではないのだろうとは思っていましたが、あまりに早すぎる。
竜が格好いいし、ヒロインは可愛いし、主人公無双が楽しめるお気に入りのファンタジー作品だったんだけどなあ。


今回のジャンには眼を見張るものがありますね。戦況を覆すべく、作戦に戦闘と、全方面で大活躍を見せてくれました。
1巻の頃の駄目っぷりはどこにいったのやら。そもそもあの頃のジャンなら、周りを騙しきることもできずに終わってしまっていたでしょうが。
完全にヴィクトルになりきるというジャンのアイデアは、それだけ聞くと当たり前のことのようにも思えますが、いざそれが実行されてみると、そこには壮絶な決意があったことが容易に想像できます。
裏切った兄の名を騙り、自分の名が大衆から貶されるのを平然と受け入れる。必要とあらば、ジャンを殺すとまで言い切る。
根が素直なジャンのこと、本当に自分を捨てようとしなければ、このような振る舞いが取れるはずもありません。
彼の正体を知るティアナやクリスがどのような気持ちで人々の声を聞いていたのかと思うと、胸が痛くなってきます。
それにしても、本当にヴィクトルのやり口は容赦がないですね。
敵の言ばかりを信じて味方を省みようとしない騎士学院の人々もどうかと思いますが、絡め手から弟を追い詰める彼の手腕には舌を巻きます。
黒の鉄姫に比べれば目立たないけれど、やはり最強にして最後の敵は実の兄だったということか。


大胆な作戦で全てをひっくり返す展開は大好きです。
この作戦をジャンが立てたということに驚きつつ、こんな無茶な作戦はジャンくらいしか思いつかないだろうと考えると妙に納得がいっておかしいですね。
もちろん作戦だけで戦いが決まるわけではありません。皆それぞれの思いを胸に、それぞれの場で戦いました。
クリスとフレデリカ、ラシードとアネモネ。アダマスだって、ジャンを激しく憎みながらも、最後まで共に戦い抜きました。
そしてラフエッジとマグノリア。悔しいけれど、やっぱり格好いいんだよなあ。
全てをカジカに任せて戦いに行っちゃうなんて、ずるいんですよ。ずるすぎるんですよ……。


ああ、我らが絶対のヒロイン、ティアナ様。可愛すぎます。レガリオンのおまじないってなんなんですか! きゅんときちゃうだろ!
遂に笑顔まで見せてくれて、今まで読んできて本当に良かったと、じんわり幸せを噛みしめました。なんでここにイラストがないのか理解に苦しみますね。
竜と人間の恋愛は禁忌。さらに、ジャンにはクリスがいる。自分でも気付かぬやきもち。抑えられない胸のときめき。そう、私恋しちゃってるの! かあ、たまりませんなあ!(※途中から妄想が多分に含まれております)
ジャンが最終的にどちらを選ぶのかは分かりません。
それでも、ティアナもクリスも、彼と一緒に居続けると言い切りました。
現状ではクリスがちょっとリードしているようにも見えますが、想いが固まれば、きっとティアナ様も。だって彼女は唯一の、ジャンの翼なのですから。


物語はこれで終わりますが、戦争も、彼らの人生も、まだまだ先は長く続いていくことでしょう。
ジャン、ティアナ、クリス、ついでにアダマスの恋模様、マグノリアやグロリアのその後など、気になることはたくさん残されていますが、全てを語らずに終わるのもまた美しいのかもしれません。
最後まで油断させず、とても楽しく読ませてくれる作品でした。
三上延先生、そして麗しいイラストで物語を彩ってくれた椎名優さんに、心からの感謝を。次回作も楽しみにしています。