まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

幕末魔法士Ⅱ ―大坂鬼譚―

  • ストーリー

冬馬を連れて大坂へ戻ってきた伊織だったが、なぜか適塾は閉鎖され、塾長の緒方洪庵は行方不明になっていた。
薬種問屋武州屋の娘が突然鬼と化し人を喰って逃げた事件に、塾生の魔法士・来青の関与が疑われているらしい。
犯人捕縛のため壬生浪士組が動き出すなか、伊織と冬馬は真相究明に乗り出すが……。


電撃小説大賞で<大賞>を取ってから丸1年ぶりの新刊。待ってました!
慣れない単語の多さとボリュームたっぷりの分厚さのせいかかなり時間はかかりましたが、読んでいる間はずっと重厚なストーリーに引き込まれっぱなし。
高まった期待にしっかりと応えてくれる、大満足の1冊でしたね。


史実をいくつか取り入れつつも、歴史上の人物を次々に登場させては魔法使わせたり悪役にしたりとやりたい放題でとても楽しいです。
この辺の歴史に詳しくない私でもワクワクするのだから、好きな人ならなおさらではないでしょうか。
幕末という歴史ロマン溢れる舞台で、オークだのヒュドラだのといった怪物を思う存分暴れさせる。
そんなファンタジー要素を取り入れながら、細やかな部分にまでしっかりと時代を感じさせる描写が溢れていて、これといった不自然さもなくそれらが同居しているのが凄い。


それにしても、善人悪人問わず「あのキャラが実は」というどんでん返しの多いこと。中盤から終盤にかけては驚きの連続でした。
複雑に入り組んだ事件の真相が少しずつ明かされていく緊張感に、見事な伏線回収の爽快感。そして何より、刀と魔法の飛び交う迫力のバトル。
どこをとっても素晴らしく、よく練られ、うまく作り込まれた作品だということを改めて感じます。


新たに登場した人物もそれぞれ魅力的でした。
やはりなんと言っても土方歳三沖田総司の格好良さが飛び抜けていますね。
切れ味鋭い技の冴えもさることながら、惚れた相手を守り、恩人のために命をかける姿がとても素敵。
特に沖田はちょっとした秘密を隠し持っていて、凛々しさと優しさとのギャップが実にいい。ついくらっと来てしまいます。
伊織と冬馬の距離も徐々に縮まりつつあるようで、ふとした時に伊織が見せる少女の顔や、冬馬への明らかな嫉妬がとても可愛いです。
男装の少女って、他種のヒロインとは別物の可愛らしさがあるよなあ。
「約束を果たす為の魔法」にはニヤニヤが止まりませんでした。冬馬は意外とやり手のようだ。


物語の裏でうごめく闇はあまりに大きく、未だその全貌は見えず。
歴史の変わり目特有のものなのか、殺伐とした気配が常に満ちています。
はびこる間諜と裏切り、そしてもたらされる誤解、休みなく襲いかかる危機に対して、伊織と冬馬がどのように立ち向かっていくのか、続きがとても気になるところです。
歴史的事実とどこまで折り合いをつけていくのかにも注目ですね。


「燃えよ、剣」は不意打ちでした……。