まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』感想

王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語 (メディアワークス文庫)

ストーリー
王立士官学校≪黒の門≫。全土から集まる優秀な生徒たちの中に華奢な美少年が一人。イェレミアス・リーヴライン――真の名はアリシアという。その正体は少女だった。アリシアは入学早々、有力子弟の一派に目を付けられてしまう。立身出世が約束される学園生活。正体を隠しつつ無事卒業しなくてはならない。だが彼女にも心強い仲間が。常に寄り添う従者ジークハルトに、腕の立つ少年ユスフ。そして彼女自身にも秘めた才能があって? 陰謀渦巻く壮大な学園ストーリー開幕!

mizunotoriさん(mizunotori (@mizunotori) | Twitter)の評に惹かれて読みました。
故郷での内乱を勝利に勝利に導いた才を持ちながらそれを失ってしまった少女が、性別を偽って敵だらけの学園へと入学するファンタジー
なかなか読み応えのある物語でした! 誰よりも格上の才能を秘めているはずなのに読者にすら見せてくれない主人公の姿には散々やきもきさせられましたが、だからこそいざ本領を発揮した際の痛快さたるや素晴らしい。
二歩進んで一歩下がるようなじれったさがありつつも、今後の主人公の活躍に胸踊らせずにはいられない期待感たっぷりの一作でした。


故郷ランス島を二分した内乱で、異母兄率いる軍を勝利へと誘った少女アリシア。しかし彼女は内乱の際に父母を失った衝撃でその才覚を失い、戦いの場で怯えるようになってしまう……。
王家に対する人質として、性別を偽り王都にある士官学校に入学することになったアリシアだけれど、故郷を出てもその臆病さは変わらず、頼りは腹心の従者ジークハルトのみ。
入学していきなりの模擬試合でも震えてしまって落第者の烙印を受け、王都のエリート貴族からは田舎者と揶揄され、王家に楯突く家の者と蔑まれ、どれだけ言われてもアリシアは立ち向かうことができず、なかなかストレスの溜まる展開が続きました。


一方で彼女の周りにも数は少ないながら有能な仲間が。
まずなんといっても従者ジークがいいですね。ランス島では執政官を担っていた逸材でありながらアリシアにとっては気のおけない幼馴染で、周囲からどんなに言われようともアリシアの才能を信じて疑わないそのまっすぐな姿勢が好印象。
それから名門の次男坊ながらなぜかランス島主従を気にかける山高帽の伊達者・ユスフ。ジークとの一方通行なやりとりが楽しいですね。軽薄なようで戦いの場になると驚くべき強さを発揮してくれるのもギャップがあっていい。彼はアリシアが女性だとは知らないのだけれど、ちょいちょい「イェレミアス」に目を奪われたりしていてニヤリとします。
仲間だけでなく、学園におけるアリシアの敵や、敵か味方か分からない立場のキャラクターにもそれなりに魅力があります。
確固たるエリート意識のもとにアリシアを退場させようとする学年代表格のヘルムート。学園でも珍しい女性にして凄まじい知識量を誇る才女カサンドラ。無口な山の民の男スヴェン。王都で最高の名声を集める謎めいた天才バトゥ。
皆が自分の信念と目的を持ち、派閥に所属したり陰謀を巡らせたりする中で、そのほとんどがアリシアのことを臆病者の無能と思い込み、そしてそれはほとんどの場面でその通りなのだけれど、最後の最後でその判断は覆されることになる。
あるタイミングをきっかけに当時の才能を取り戻したアリシアが、その知略とカリスマで圧倒的不利を覆す最終章の気持ちよさ。ここまで我慢に我慢を強いられてきただけに、爆発するカタルシスがありました。
ここから少女がさらに羽ばたいてゆくのか、それとも再び失速してしまうのか。ランス島に残る兄イェレミアスはどう動くのか。そして「英雄」とは誰なのか。続きが気になる。


地図だ、地図をくれ、地図を……(地図に飢えるファンタジー読み)。