まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

エーコと【トオル】と部活の時間。

エーコと【トオル】と部活の時間。 (電撃文庫)

エーコと【トオル】と部活の時間。 (電撃文庫)

ストーリー
半年前に起こした事件のせいでクラスから孤立した【エーコ】。
ある日彼女は、入部した化学部の部室で喋る人体模型の【トオル】君と知り合う。
その正体をいぶかしみつつも部室に通うエーコだが、そんな中、校内で女生徒が自然発火するという事件が起こり……。



第19回電撃小説大賞<金賞>受賞作品。
とある過去から学校で孤立している少女・エーコが、校内で発生する人体自然発火事件の謎を解いていくお話です。
あらすじの「学園ミステリー」の文字に釣られて手に取ったのですが、いやあ、面白かった! 休み休み読むつもりでいたのに、気付いたらぶっ続けで読みきってしまっていました。


文章は一人称で、語り手は主人公のエーコ。もう、このエーコの語り口が素晴らしくて、物語へと一気に引き込んでしまう力がありました。
まあ、大きな特徴があるというわけでもなく、普通の丁寧語での語りなんですけどね。でもなぜか、読めば読むほどにエーコという女の子のことが気になって、仕方なくなってしまうんですよね。もしかしたら、外側が普通だからこそ、少し漏れ出てきた、内面の異常が際立つのかもしれません。
お話は、ミステリーでもありつつ、ホラーやサスペンスといった要素も少しずつ混じっているのかなという感じ。
でも、扱っているテーマのわりに、重苦しさはあまりなくて、むしろエーコの淡々とした口調に乗って進んでいくと、不意打ち気味に事件が起こってドキッとさせられることが多かったような気がします。
このあたりのバランス感覚が、絶妙なんですね。ずっと重苦しいとしんどくなってしまうし、かといってずっと明るければ怖さがなくなってしまうし、という、間のギリギリのラインを走っている。だから凄く不安定で、簡単にどちらにも落とすことができるのだと思います。
それから、基本的なところですが、読んでいて情景がすっと頭に入ってくる分かりやすさも大きな魅力でした。やっぱりこういうお話の場合は、建物の作りとか置かれている物の描写とかが大事になってきますからね。


喋る人体模型に始まり、自然発火する女子生徒やら、街中に潜伏する放火魔やら、色々な不思議が次々に現れ、こちらの不安を煽ってくれます。
その中でも最大のものは、やっぱり人間。エーコをはじめ、雪村先生や素草、水野といった人物が登場しますが、全員どこかおかしくて、謎めいていて、見ていると怖くなってきてしまいます。
正直に言って、事件のあらましやトリックといった、いわゆるミステリーの部分は、それほど大したものではないと思います。もちろん何度もはっとさせられたことは確かですが、推理ものとしてはどうかという部分も、まあ、なきにしもあらずでした。
ただ、この作品の焦点はそこではなく、その事件の裏に潜む人間の思いや狂気だと思うのです。エーコが謎を解いていく中で、そういった人間の中身に触れるたびに、背すじを冷たいものが駆け抜けていきました。
もちろん、最後までエーコ本人のことだけは、分からないままだったのですけれど。


二転三転する事実に何度もゾクゾクさせられましたが、終わり方もまたニクいですね。やられた。
明かされなかったことや、明かされているけれど気付けなかったことなど、色々残っていますが、どうやら続いてくれるようですし、そのうち分かっていくこともあるでしょう。
何よりまず、エーコが最高に魅力的なもんですからね。それだけで読む価値があるってもんですよね。エーコ可愛い。ミステリアス狂気可愛い。
今後も彼女の可愛さ、格好良さを描きつつ、神秘のベールに包まれた彼女の内面を、少しずつ暴き出していってくれることを期待して、次を楽しみに待ちたいと思います。


イラストはMACCOさん。まずなんといってもこの表紙。雰囲気出まくってて最高です。
モノクロイラストでもエーコが良かったですね。特に目つきが素晴らしいと思います。


【レッド・ブルマー】の真実が明かされる日は来るのだろうか……。