まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

はたらく魔王さま!

はたらく魔王さま! (電撃文庫)

はたらく魔王さま! (電撃文庫)

  • ストーリー

世界征服まであと一歩だった魔王サタンは、勇者に敗れ、異世界『日本』の東京・笹塚にたどり着いた。
魔力を失った彼は、部下アルシエルと共にボロアパートでのフリーター生活を始めることに。
そんなある日、魔王を追って時空を超えた勇者エミリアと街中で偶然再会して……。


第17回電撃小説大賞<銀賞>受賞作品。
異世界からやってきた魔王が庶民生活に勤しむ、ファンタジー(?)コメディです。


大軍勢を率いて人間を絶望に陥れ、世界を手中に収めようとしていた魔王、そしてその部下の悪魔大元帥。
そんな2人が、下町の六畳一間のボロアパートに住んで毎日の生活費稼ぎにあくせくする姿がなんともおかしい。
口では世界征服だとかなんとか言いながらもせっせとファーストフード店のアルバイトに励んで、目下の目標が正社員になることだっていうんだから、スケールの小ささに笑ってしまいます。
時給が100円上がって大喜びしたり、自転車がパンクして大騒ぎしたりと、現代日本に居着いた魔王サタン・真奥はどこまでも庶民的。
悪魔ではあるけれど、もう、一生懸命に目標に向かって働く普通の青年にしか見えなくて、とても好感がもてました。
一方の勇者エミリア・恵美は日本にやってきて携帯電話会社のテレホンアポインターになっており、職場での友人もできて、立派に一般人風に。
魔王も勇者も、すっかり日本での生活に馴染んでしまい、超能力もほとんど失ってしまいました。
そんな両者が今さら再会したところですぐに殺し合いになるはずもなく、かといって仲良くなれるわけでもなく。
なんとなく気持ちの落とし所を見つけながら、ゆっくりとお互いに歩み寄る魔王と勇者という不思議な関係。
ファンタジーの世界から日本に来て、友人や職場と関わる中で、征服したり敵を倒したりすること以外にも幸せの形があると気付いていく彼らに胸が温かくなりました。


そんな妙だけれど居心地のいい生活を脅かす、異世界からの追っ手。
強大な魔力を振り回す敵に対して、真奥と恵美はまさかの共闘を見せます。宿敵同士がタッグを組むのってどうしてこんなに熱いのかな。
まあ、戦いといってもあまり真面目な感じでもなくて、どこかゆるい雰囲気が漂っていました。
それも真奥が丸く柔らかくなったおかげですね。魔王ではなく、真奥として戦っているからこそ、人々を守りながら戦うことができる。
世界征服を企む魔王としてはどうかという感じですが、他人への優しさを知ることは、彼にとっても決して悪いことではないだろうと思います。


マグロナルドやユニシロなどのパロディにいちいち笑いながら、まったりと読むことができる1冊でした。
なんだかんだで真奥といい間柄になりつつある恵美、そして真奥にベタ惚れらしいバイトの後輩・千穂の恋の行方がどうなっていくのか、なんとも気になるところ。
大家の謎なんかも残されているし、続きがとても楽しみです。


イラストは029さん。ラストの恵美がたまりません。ああ、でも、ちーちゃんも可愛いなあ!


あとがきには心をぐっとつかまれました。素晴らしい。