まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『小説の神様 あなたを読む物語(下)』感想

小説の神様 あなたを読む物語(下) (講談社タイガ)

ストーリー
あなたのせいで、もう書けない。親友から小説の価値を否定されてしまった成瀬。書店を経営する両親や、学校の友人とも衝突を繰り返す彼女は、物語が人の心を動かすのは錯覚だと思い知る。一方、続刊の意義を問う小余綾とすれ違う一也は、ある選択を迫られていた。小説はどうして、なんのために紡がれるのだろう。私たちはなぜ物語を求めるのか。あなたがいるから生まれた物語。

「だからね、この物語を書いてくれてありがとう」
上巻を読んでから首を長くして待った1ヶ月。長い1ヶ月でしたが、ようやくこの本を読むことができると、少し震えながらページをめくりました。読みました。最高でした。
小説にまつわる、苦しいこと、切ないこと、理不尽に思えてしまうこと。楽しいこと、喜ばしいこと、思わず笑顔になってしまうようなこと。物語というものに対しての、書き手としての、読者としての、さまざまな思いがぎゅぎゅ、っと詰め込まれていて、どれもこれも共感できてしまって、ため息が出ちゃう。
作者の叫びのようにも思えるあれやこれやが、胸をえぐってきます。小説に関わる全ての人が幸せであればいいのに。せめて自分くらいは、いい読者でありたい。真摯な読者でありたいなあ。


真中さんとの再会を経て、すっかり自己嫌悪に拍車がかかってしまった成瀬。そんな彼女に物語を読むことの喜びを思い出させてくれたのは、リカの取り巻きの一人・ユイちゃんでした。
初めて小説を読んだという彼女の、無邪気に物語のことを語る笑顔! 友達と同じ本のことを語り合う楽しさ! そうだ、小説は一人で読むものだけれど、みんなで楽しめるものでもあったんだ。忘れてしまっていた。物語を通して人と繋がるということ。何物にも代えがたいこの喜び。
成瀬は自分の世界に閉じこもりがちで、うじうじと一人で抱え込んで、勝手な思い込みで爆発してしまったりもする子だけれど、そういう部分はきっと誰しもが持っている。彼女の場合は、気づかせてくれる友達が近くにいた。ちょっと、内の物語に向けていた視線を、外に向けてみるだけでよかった。
物語は彼女を追い詰めてばかりいたようにも思えたけれども、そうじゃなかった。そのことがまるで自分のことのように嬉しい。救われた気持ちになりました。


一方、続刊の是非について小余綾とすれ違い続ける一也。近づいたり離れたり、ちょっと前に進んだかと思ったら元の場所に戻っていたり、まったくしょうがない二人である(苦笑)。
すれ違うというのは、お互いのことが分かっていないということで。一見して距離が縮まっていても、逆に意見は割れてしまったりする。人間という物語は本当に難しい。
でもだからこそ、相手の物語を読もうとする行いはとても尊くて素敵なことだと思います。それは怖くて勇気のいることかもしれないけれども、きっと、とても価値のあるものです。本当に大切な人に対しては、自分の物語をさらけ出して、相手の物語を読もうと努力したい。この作品を読んでいると、そうする勇気が湧いてくるような気がするから不思議です。
一也と小余綾がようやく見出した、続刊を書く意義。気付いてみれば当たり前すぎるくらいに当たり前だった、ある意味陳腐な結論だけれど、一読者としては拍手喝采を贈りたい。
作者の思いが必ずしも読者に届くとは限らなくて、同じように読者の思いも作者に届かないことはある。だから、読者の切実な思いに気付いてくれた作者には、全力で感謝を届けたい。そんな思いで、今回の出だしは小余綾詩凪の言葉を借りさせてもらいました。
まるで自分のために書かれたように思える本。奇跡みたいな出会いをしたと信じられる本。この作品は僕にとって、間違いなくそう思える大切な本の1冊になりました。
だからこそ言います。続きが読みたい。読みたいなあ。文化祭が結局どうなったのかも、一也と小余綾のラブコメの行く末も、千谷一夜の新作も、気になって仕方ないんだ! いつまでだって待ちますから。続きを。お願いします。


それにしても表紙が素晴らしすぎる。うちの本棚にもう少しスペースがあれば並べて面陳するのになあ!