まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

この大陸で、フィジカは悪い薬師だった

ストーリー
エイル教の新人角守として旅に出たばかりの少年アッシュ。
しかし彼は初陣の相手に選んだ「害獣」カクタスリザードに負け、命の危機に陥っていた。
そんなアッシュを救ってくれたのは、教会が異端認定した「悪い薬師」ことフィジカで……。



新米の巡礼戦士として盲目的に教会を信じる少年と、「害獣」たちを癒やして回る「異端」の少女、凸凹コンビによる旅情ファンタジー。
はあー面白かった……。前作でも思いましたけど、作者の確固たる力量を感じます。
頭から教会が善であると信じ込んでいる少年が、少女とともに旅をし、ゆく先々で「害獣」に触れることで、次第に自分の信仰を見つめなおしていく姿が丁寧に描かれていました。


エイル教の「角守」として初陣に出て、最弱レベルの害獣に速攻やられてしまったアッシュ君。
彼の死の淵から救ったのは、教会から「悪い薬師」と呼ばれて異端認定されている少女フィジカでした。
教会の薬師などとは根本から違う高い医療技術を持ちながら、人間相手には治療代として高い金品をふっかける一方、害獣ばかりを治療しながら旅をする謎の少女。
命の恩人ではあるものの、異端の人間を放っておくわけにもいかず……結局嫌がられつつも彼女の後をついていくことに。ちぐはぐなふたり旅が始まります。


アッシュは、角守になったばかりで世間のことを何も知らず、教会の言うことが全てだと思っている少年です。
そんな彼にとって害獣とは害悪そのものであり、教会が定めた禁忌を犯すフィジカのことも全く理解できません。害獣なんていない、人間が幻獣を勝手に区別しただけなんだということを、なかなか受け入れることができない頭の固さ……信仰とはとかく厄介なものです。
しかし、フィジカとについて旅をして、村の人々の役に立っているコカトリスや、父を助けるために懸命なフェアリーなどと出会い、少しずつではありますが、自分の信じてきたことが正しいのかどうか考えることが増えていきました。
超然とした少女フィジカはときに、少年を冷たく突き放します。でも少年は、諦めずに彼女の後をついていくのです。自分の信仰を見定めるために……。
他にも、サラマンダーやユニコーンや人魚、果てはドラゴンといった幻獣たちが各章で登場しては、それぞれにまつわる事件を解決していくのですが、それぞれが短編として非常によくまとまっている上に、全体として見るとアッシュの成長物語とも、アッシュとフィジカの間に絆が生まれる物語とも読めて、とても満足度の高い1冊でした。個人的には人魚のエピソードが妙に切なくて好きですね。
ようやくフィジカの旅の仲間になれた……ような気もするアッシュ君。次にふたりが出会うのはどんな幻獣なのか。続きが楽しみでなりません。


イラストはアマガイタローさん。各章扉の幻獣たちが格好良い!
口絵のジト目フィジカもとても好きです。


スケベニンゲンってなんて可愛い罵倒なんだ。