まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ただ、それだけでよかったんです

ストーリー
菅原拓は悪魔です』という遺書を残して自殺した中学生・岸谷昌也。
自殺の背景には、菅原拓による昌也たち四人への壮絶なイジメがあったという。
だが、菅原拓スクールカースト最底辺の地味な生徒で、昌也は人気者の天才少年であったことなど、不自然な点が多くあり……。



第22回電撃小説大賞<大賞>受賞作品。
スクールカースト最底辺の少年が、クラスの人気者をイジメて自殺に追い込んだ? 加害者とされた主人公と被害者の姉、ふたりの視点から事件の裏に隠された真相を解き明かしていく、愛憎と革命の学園ストーリー。
うーむ、面白かった。さすがは大賞というべきか、謎が謎を呼ぶ展開にぐいぐい引き込まれる物語でした。
皆から嫌われ、死を願われる、そんな中で孤独な戦いを続けてきた主人公の覚悟と悲しみを思うと、胸が苦しくなってきます……。


菅原拓は悪魔です」という遺書を残して自殺した少年・昌也。
かの少年・菅原拓自身の証言から、拓が昌也を含む4人の少年をイジメていたということが分かっており、彼は世間から悪魔と呼ばれることになるのです……。
しかし、昌也の自殺の1ヶ月前にイジメが発覚して以来、拓は昌也に近づくことが許されておらず、なんの手出しもできていなかったことが判明。そもそも、拓はクラスでも最下層の少年であり、人気者の昌也たちを1人でどうこうできるわけがない。
拓も、他の3人も、「菅原拓がイジメた」の一点張りで、謎ばかりが渦巻く中、昌也の姉・香苗が事件の真相を求めて動きだすのでした。
クラスメイトも、メディアも、ネットも、みんながみんな菅原拓のことをを憎み、嫌い、蔑む……。
地獄のような日々の中、渦中の男子中学生は何を思うのか。そして、かつて「親友」だったという昌也との間に何があったのか。この中学校で行われているという「人間力テスト」とは。
2ヶ月前の拓と、現在の香苗、ふたつの視点を交互に描いていくことで、少しずつ隠された真実に近づいていき……最後に拓の告白へと繋がる。見事な構成でした。


拓と昌也のことを描く中でキーパーソンのひとりとなるのが、ぼっちの拓に声をかけてきた少女であり、また昌也とも関係の深かった少女・石川琴海です。
彼女の存在は、大きかったですねえ……色んな意味でねえ……。他に誰も話す相手がいない中で、彼女が救いに見えた拓が思わず惚れてしまうのもよくわかるんですけど、全てが分かった今考えると、なんとも苦々しい思いが湧きおこってくるといいますか。一度はヒロインかもと勘違いしただけに尚更。
結局のところ、最後の最後まで拓の仲間はいなかった。いや厳密には、いたのかもしれませんが、拓の方がそれを欲していなかった。
自ら孤独を選んで、そして孤独なままに全てを終える。言葉にするとカッコよく見えるかもしれないけれど、決してカッコよくはない。でも、自分たちが置かれている何かをぶち壊すために、ひとりで考えて何かを成し遂げようとする気概だけは立派だったんじゃないかと、個人的には思うのです。結果は、このようなことになってしまったわけですが。
考えることはいっぱいありますが、今はとりあえず、これからの拓が幸せになってくれることを願わずにはいられません。正直、厳しいと思うけれど……。「彼女」が隣にいてくれれば、きっと不可能じゃない。そう信じたい。


イラストは竹岡美穂さん。こういう作品の雰囲気作りにおいては、もはや絶品としか言えないイラストレーターさんですね。
しっかし、琴海が可愛いなあ! 可愛さ余って……(笑)。


正直「人間力テスト」は受けてみたい(散々な結果になる未来しか見えない)。