まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~』感想

彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ (ファミ通文庫)

ストーリー
遠藤正樹は嘘がわかる特異体質で、川端小百合は決して嘘をつかない少女だった。そして学校のアイドル佐倉成美は、常に嘘をふりまく少女だった。ある日、川端と佐倉の共通の友人が亡くなってしまう。自殺という噂だったが川端は「彼女は殺された」と言い、佐倉も「彼女を追い詰めたのは私」とうそぶく。真相を知りたいと川端に頼まれた正樹は、その力で誰も知らない佐倉の心の内を知ってしまい――。願いと嘘と恋が交錯するトライアングルストーリー。

嘘つき少女の本性は
嘘を見破ることのできる主人公、周囲に嘘ばかりついている少女、決して嘘をつかない少女。3人の少年少女の交わりを通して、とある少女の死の真相を探りだしていくミステリアス学園青春ストーリー。
「嘘」や「自殺」というワードから殺伐としたものを感じつつ読みはじめたのですが、その実とても温かくて、それでいて少し鼻につんとくる、心優しい物語でした。切なさも悲しみもあるけれども全部ひっくるめて優しさに持っていく、三田千恵マジックだなあ。
周囲のみんなに嘘をつきつづけるヒロイン・佐倉が特に魅力的で良かったです。


主人公の遠藤は他人の嘘が分かるという不思議な力の持ち主。だからこそ嘘をつく人間が苦手で、学校のアイドルの佐倉のことは嫌っているし、いつも正直な川端のことを気にかけている少年です。
人の嘘がわかるなんて、数ある超能力の内でもトップクラスに欲しくない能力じゃないですか? それがプラスになる瞬間が思い浮かばない……。
遠藤の佐倉に対する評価なんかを見ると、いくらなんでも嘘に対して過敏すぎるとも思えるけれども、こんな力があったらそれも仕方ないかなあ。特に彼の場合は、父子家庭なのにその父ともこの力のせいでギクシャクしてしまっているくらいだし、逆に、一切嘘をつかない川端のことを特別視してしまうのもわかる。個人的には、上手に嘘をつく小悪魔的な女の子って素敵に見えますが……。


川端の唯一無二の親友にして、自殺してしまった女の子・小林。川端は、その小林の死に佐倉が関わっているという……。
川端の力になるべく、佐倉の嘘を暴くために苦手な彼女に接近する遠藤だけれど、一緒の時間を過ごせば過ごすほど、佐倉が実はいい奴だということがわかってしまう。初めこそ「嫌い」だとか言い合っていたのに、いつの間にやら普通の友人以上に仲良くなっていたふたりの姿がラブコメ的にアツい。いや、もちろん川端のまっすぐな愛情表現も素晴らしいのだけど、ごめん、誰からも愛される学園のアイドルが自分だけには本当の姿を見せてくれるっていうシチュエーションに弱いんや。
そんな佐倉が語る小林の姿と、川端が語る小林の姿のギャップ。どちらも真実のようでいて、まだ隠された部分がある。嘘ばかりついていた女の子が本音を語り、嘘を嫌っていた少年が嘘を受け入れてたどり着いた答え。優しい嘘を通して知る、小林が残した大切な友人への思いに胸がいっぱいになりました。これが三田千恵ワールド。嘘に満ちた優しい世界です。
それにしても、この終わり方は卑怯だ! やはり佐倉成美は魔性の女である。たぶん続かないんだろうけど、続きが読みたいなあー!!


イラストはしぐれういさん。凄まじい表紙力。この瞳の中で溺れたい。
佐倉も川端も表情豊かで、本当に甲乙つけがたい魅力を放っておりました。


優しい世界の中で1人だけ株を下げた女こと前田さん……(不憫)。