『カネは敗者のまわりもの』感想

カネは敗者のまわりもの (ファンタジア文庫)

ストーリー
金額次第で超常現象さえも買える悪魔のカネ《魔石通貨》。その争奪戦『取引』に明け暮れる高校生、失井敗斗は「ますたーが望むのであれば、えっちなことをされても……」戦利品として手に入れた『資産』の少女、メリアの所有者となる。カネ至上主義の敗斗は懐くメリアを売り払おうとしたり、命がけの『取引』に利用したり、非道な扱いをするのだが……。メリアが宿す秘密が暴かれ、世界の標的となったとき「買い付ける。未来永劫メリアを奪おうと思えなくなるほどの恐怖を」敗北を宿命づけられた少年が選んだのは、世界の敵となる道だった。第30回ファンタジア大賞＜大賞＞受賞の新王道マネーバトル！

まだまだ続くよ今年の新人賞を読もうキャンペーン。
今回は第30回ファンタジア大賞＜大賞＞受賞作品。全てのものが買える魔石通貨を巡り、「資産家」たちが血で血を洗う争いを繰り広げる現代頭脳バトル。
圧倒的資産力を持つ相手に対し思わぬやり方で勝ちをもぎ取っていく痛快さと、少女を助けたいという願いのために全てを投げ打つ少年の思い切りに熱さを感じる作品でした。


この世のありとあらゆるものを買うことができる魔石通貨・リル。それを手に入れるための方法は他の「資産家」との殺し合いのみ。
高校生の身で、そんな殺伐とした世界の裏側で生きるカネの亡者・敗斗が今作の主人公。そんな彼の最大の武器はその頭脳です。
物語のプロローグ、いきなり「時間を停止させる資産」を持つ資産家に勝利する場面から始まるんだからすごいですよね。そんなん普通はラスボスとかランキング1位の奴とかが使ってくる能力じゃないですか。
カネの力が全てといってもいい世界で、少ない資産で格上に勝つには頭を働かせるしかない。一度でも負ければ文字通りの終わり。毎回そんなギリギリの戦いをしてくれるもんですから、そりゃもう手に汗握ります。


ただカネのために生きてきた敗斗のもとに、「資産」として転がり込むことになった少女・メリア。初めこそ厄介者扱いだったけれど、いつの間にか少女は少年にとって大切なものになっていく。
少女に隠された数奇な運命。少女を狙う資産家たち。負け続けた少年は、それでも少女のため一世一代の勝負に打って出る。
うんうん、自分を「ますたー」と呼んで懐いてくる年下のヒロイン（かわいい）のために頑張れなくて何がオトコノコかってもんですよ！
メリアの他にも、情報屋の少女や個人商店の店員、そして最強の「資産家」など魅力的なキャラクターが揃っており、それぞれが協力者として敗斗に力を貸してくれる展開には胸が踊りました。特にやっぱり、勝子さんがいいですね。設定に中二力が溢れている。
最後の戦いで敗斗が取ったやり方は、正直なところ分かったような分からんようなという感じです。理解力がなくてすまん。んー、これで成り立っているの？　そういうもんなの？
まあ別に手法はどうでもよくて、むしろメリアのために「魔王」となった敗斗の決断こそが見所といえるでしょう。少女を助ける優しい「ますたー」としての顔と、そのために他者を踏みにじる「魔王」としての顔と。両面の魅力を持つ主人公が次巻でどのような復活劇を見せてくれるか。期待です。


イラストはMika Pikazoさん。可愛さとスタイリッシュさを兼ね備えたイラスト、毎度ながら素敵でございます。
しかしメリアさんの服装やべーな。敗斗、いい趣味してるぜ……（笑）。


勝子さんが圧倒的腕力で無双していくスピンオフ読みたい。