まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

神様のメモ帳8

神様のメモ帳〈8〉 (電撃文庫)

神様のメモ帳〈8〉 (電撃文庫)

  • ストーリー

年末年始、頻発する雀荘荒らしに対して、麻雀打ちとして四代目に駆り出されたナルミ。
雀荘の客を探る日々の中、ナルミが出逢ったのは、四代目の父親・雛村玄一郎だった。
緊迫する親子対決の裏で、雀荘荒らしをはじめ、いくつもの事件があの悪夢へと結びついていく……。


てっきり短編集だと思っていたらそうでもなかった第8巻。
電撃文庫MAGAZINEに掲載されていた短編から話をつなげて、ひとつの長編といっていい1冊になっていました。
物語上から見れば、今までの中でもかなり重要なエピソードのひとつだったのではないでしょうか。
掲載されていたものも読みましたが、さりげなく裏の流れを感じさせるように書き換えられていて、こういうところがやっぱり上手いんだなあと改めて思います。


雛村パパとの麻雀対決は、真面目な部分がありつつもギャグ多めのドタバタ騒ぎが楽しいエピソードでした。
それにしてもナルミさんの潜在能力の深さ。こういうろくでもない仕事に対しては各方面で大活躍ではないですか。決して褒めてはいませんが。
麻雀しかり、つっこみしかり。雛村パパとのやりとりは実に面白かったです。
とても親子とは思えない四代目とパパさんの戦いは冷や汗ものでした。それでも、なんだかんだでふたりをつなぎ止めている絆にはじんとします。
ナルミがいたから橋がかかったのか、元からこんな風だったのかは分かりませんけど、どちらにしてもお互いをそれなりに大切に思っているのだということは分かります。
四代目は絶対に認めないかもしれませんが、やっぱり家族ってやつは彼にとっても特別なんですね。


ようやくといっていいのか、今頃になってというべきなのか。
1巻、そして3巻から続く、エンジェル・フィックスの悪夢が再来しました。
この薬に関する話はどうしても重くなってしまいがちですが、今回は特に息苦しかったですね。
何よりも事件の中心に彩夏がいることで、彼女を傷付けまいとするあまりに、ナルミが、ひいてはニート探偵団が、思うように動くことができない。
挙げ句に、仲間であるはずの四代目とさえ道を違えてしまいます。
ナルミが間違っていないことは分かっていても、これはなかなか精神的にくるものがありました。
逃げてばかりいないで彩夏の強さを信じてやればいいのに、などとも思いましたが、あのとき彼女の一番近くにいたナルミだからこそこうするしかなかったのでしょうね。
停滞する探偵団を前へと向かせたのは当の本人である彩夏でした。
今回に限ってはただひとり、彼女だけがそうすることができたに違いありません。
それから最後の一押しとして、“カチ込みに”やってきた平坂組の面々。
これは私の推測というか希望に過ぎませんが、四代目は彼らを、ナルミとアリスに託そうとして送り込んできたのではないでしょうか。そうだったら素敵ですけどね。


いつものように、誰も救われていないのに美しさだけがある結末でした。
読み終わってから表紙を眺めるとなんともまた、感慨深いものがあります。
物語も佳境です。記憶を取り戻しつつある彩夏や、最後に思わせぶりなことを言いかけたアリス。
ますます気になる展開に、今後も目が離せません。次巻も楽しみ。


雛村パパ、予想していたよりも老け顔だったんですね。