まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

クロノ×セクス×コンプレックス(1)

  • ストーリー

平凡な時計屋の息子・三村朔太郎は、高校の入学式当日、奇妙な路地から見知らぬ学校の入学式に迷い込む。
そこは時間を操る魔法を学ぶ学校。クロックバード魔法学校だった。
自分の姿を見ると、なぜか女の子になっていて……?


初壁井先生作品です。
評判になっているのを知りつつもずっと手を出せずにいた作品、パート……ええと、いくつめだろう……。


これは面白い。
第一印象では「『女子化!魔法学校!タイムリープ!』って要素多すぎないか?」などと思ったりもしましたが、それらの要素が綺麗にひとつにまとまって独特の味わいになっています。


主人公の性別が入れ替わってしまう作品をTS(トランス・セクシャル)ものと呼ぶらしいですね。
今まで読んだ作品では「創立!?三ツ星生徒会」がTSものに近かったように思いますが、完全に性別が変わったままになってしまう作品はたぶん初めてです。
なんとなく敬遠していたのかなと。面倒くさそうだと感じていたし、TSの主人公の恋愛に魅力があるのかどうか微妙だと思っていましたから。
しかしこの作品を読んで考えが変わりました。
体が女の子のものになって恥ずかしいというだけでなく、周りが全部女の子という寮での生活の苦悩や、女の子の知らない面を知る驚き、好意を示してくれる女の子に対してどう気持ちの整理をつけたらよいのかなど、妙にリアリティがあってとても楽しく読めます。
ほのかな恋愛描写も素敵ではないですか。百合なのかそうでないのかは分かりませんが。


魔法学校。なんとも夢の溢れる言葉です。
こう書くと安易に見えてしまうかもしれませんが、読みながらイメージしたのはやはり「ハリー・ポッター」ですね。実際、かなり「ハリー・ポッター」の世界に近いように感じました。
外界から閉ざされた学校で寮生活をしつつ魔法について学ぶ。ファンタジー好きにはたまりません。


前半は学校でのドタバタ生活が描かれるのですが、後半になって展開は一変します。
時間の<遡行>が行われ、同じ1日を何度も繰り返すことになります。
失敗を取り繕おうとするとなぜか別の部分で失敗していくその変遷がとても面白いですね。
回数を重ねるにつれ、失敗がどんどんブラックになっていって、正直かなりぞっとさせられました。
アニメの「時をかける少女」で懲りていたのに。油断していた……。


ヒロインはオリンピアとニコということになるのでしょうか。
オリンピアは魔法学校に首席で入学した優等生。ハーマイオニーを思い起こさずにはいられませんでした。
強気な態度の裏に、人一倍の努力家であるところや卑屈で弱い部分が隠れていて、そんなギャップがとても可愛らしいです。
ニコは三村のルームメイト。
オリンピアの対抗馬としてミムラを擁立しようと企む策謀家なのですが、実は誠実で友達思いな子です。
後半こそ(恐らく)メインヒロインであるオリンピアの独壇場ですが、前半は完全にニコのターンでしたね。
そばかすの子には萌えないとばかり思っていたのに。なんということだ。


なんとなくですが、ラストがあまりにあっさりしていたような気がします。
それまでのストーリーが濃密だった分、これで終わってしまうのかと少し拍子抜けしてしまいました。
消化不良気味といえばそうですが、それだけに次巻が待ち遠しくて仕方ないですね。


デンソーさんのイラストがとても良かったです。
どことなく童話のような雰囲気のある柔らかい絵で、物語によく合っていると思います。


小説「夏への扉」「時をかける少女」の一部が呪文として登場します。
読んでみたくなりました。夏休みにでも手を出してみようかな。