まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか16』感想

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 16 (GA文庫)

ストーリー
『ベルさんへ。今度の女神祭、デートしてください』
「「「「こっ、恋文だぁぁぁ!!」」」」
「ええええええええええええええっ!?」
街娘からの一通の手紙が波乱を呼ぶ! 挽歌祭とともに『二大祭』に数えられる『女神祭』で、ベルはなし崩し的にシルとの逢瀬に臨むことに。だが、何も起こらない筈もなく!豊穣の女主人、剣姫、更には【フレイヤ・ファミリア】を巻き込んだ大騒動に発展してしまう!
「全ては女神のために。――死ね、娘」
そして訪れる凶兆。一人の少女を巡り、都市にかつてない暗雲が立ち込める。
これは少年が歩み、女神が記す、
──【眷族の物語】──

うおおお、これは意表を突かれた! 正直なところ読む前は今更シルとラブコメすんの……? アイズやリューをほっといて……? という気持ちだったのですが、いい意味で裏切られました。
まあぶっちゃけラブコメ部分はどうでもいいっちゃどうでもいいんですけど……。むしろベル君ストーカー一同やフレイヤ・ファミリアの面白メンバーの暴れっぷりが楽しかったですね。
ストーリー的にも何かが進んだような気がするので、今後の展開が何より楽しみ。


いやあ、シルって何かと謎多きヒロインだったじゃないですか。裏の過去を持つ女性が集う酒場の看板娘なのになんの変哲もないヒューマンの女の子だったり。最序盤から登場していて好感度はMAXだったけどそんなにヒロインレースには参加して来なかったり。
何より今はリューの勢いが凄いところで、こんな大事な場面でなぜシルと! デート! ……って思っていたんですけれども。
なぜか彼女のバックに付いているらしい都市最大派閥。シルとフレイヤの関係を示唆する思わせぶりなモノローグ。
可愛いのは確かだけど、別にヒロインとしてはあんまり魅力は感じないかな……と思っていた彼女に振り回されるうちに、どんどん彼女のことが気になってくるから不思議なもんです。我ながらチョロいぜ。


今回の一押しポイントを語ろうとするとどうしてもネタバレに触れてしまうのでどうしようもないのですが、とりあえずベル君は何か大きな一歩を踏み出してしまった気がします。
次巻であの人がどう出てくるのか、怖くもあり楽しみでもあり。あと、今回は全然ダンジョンに潜らなかったので、そろそろダンジョン回も見たいですな。アイズの秘密も少しずつ明かされていくといいなー。
あらゆる方面で期待は付きませんが、とりあえず次巻も楽しみにしています。


アイズ&アスフィとアレン達とのバトルが見たかったです!!!!!

『エリスの聖杯3』感想

エリスの聖杯3 (GAノベル)

ストーリー
希代の悪女の亡霊スカーレットと、その復讐につきあうことになった地味令嬢のコンスタンス。奇縁で結ばれた令嬢コンビはついに、十年前の処刑の真相へと辿りつく。
あとは順に復讐相手を見つけ出していくだけ、と気炎をあげるスカーレット。だが、王国内で暗躍を続ける組織【暁の鶏】は、コニーやランドルフを『エリスの聖杯』の邪魔者であると認識し、その排除のために動き出していた。敵の意図を看破したコニーは、あえて冤罪を被って収監されることで、ランドルフの行動の自由を確保する。しかし、そんな彼女に下された王命は『十年ぶりの公開処刑』だった――!
十年前のサン・マルクス広場、処刑場での邂逅から始まった二人の少女の物語。その果てに待つ運命とは!? 感動の第三弾!!

世代をまたぐ復讐の結末は
完結。いやー素晴らしかった! 綺麗な伏線回収劇もさることながら、登場人物が全員生き生きと魅力的に動いていくドラマには感嘆させられました。
スカーレットによる復讐劇からコニーの救出劇へ、華麗なる変化っぷりにもただただ拍手。
1巻は1巻で、2巻は2巻でそれぞれ面白かったけれど、こうして完結してみると改めて感じるのが全体の美しい物語構成です。3冊一気に読み返したくなってしまいますね。


コニーにスカーレット、ランドルフといったメインどころはもちろんですが、ケイトやミレーヌ、アドルファスやアリエノール、果てはハームズワースやキンバリー・スミスやセシリアに至るまで、敵味方、過去現在、サブ・モブキャラ関係なく、みんなに見せ場が用意されていたのには驚愕。
この作品は3巻完結のわりにかなりキャラクター数が多いのですが、そんなキャラたちが一気に動いてくると圧巻ですね……。まさかキンバリー・スミスがそんな風に活躍するとは思わないじゃん……。
僕の推しはなんといってもルチア・オブライエンですね! この幼女あまりに格好良すぎます。イケメンヒロイン大好きなんで。ルチア主人公で別の物語が読みたいくらいです。


それにしても僕らのばかコニーはやってくれるぜ! 彼女の無茶も行くところまで行ったなという思いですが、命の危機に立たされた彼女のために周囲が全力で動き出す展開には胸が熱くなりました。そうかー! ここで誠実のグレイルが生きてくるのかー! なんだよ泣かせんじゃねーよ!!
スカーレットもねえ。いつの間にやら自分の復讐のことなんてどっかにやっちゃって、コニーのために必死になっちゃって、お前ジャ○アンはジャ○アンでも劇場版のジャ○アンだな!?
今作は復讐劇でもあればミステリーでもあり、偽装婚約カップルのラブストーリーとしても楽しく読めるけれど、やっぱり一番はコニーとスカーレットの友情物語なんだよなって思いました。最後のイラストとか、ちょっと完璧すぎない?
大満足のシリーズでした。上にも書きましたが、いつかまとめて読み返したいですね。漫画版の続きも楽しみにしています。


この面白すぎる登場人物紹介はガチで発明ですわ。

原作ファンから見た映画「小説の神様 君としか描けない物語」感想

shokami.jp
 めちゃくちゃ楽しみにしていた映画「小説の神様 君としか描けない物語」観ました。公開日に観てから、原作を読み返し、漫画版も読み返し、そしてもう1回観たので感想書きます。
 そもそものスタンスの話をしておきますが、僕は実写映画に対しての忌避感はあんまりありません。原作から変更されている部分があっても、それが1本の映画として成り立っているのなら、それはそれでアリだと思っています。それで原作に触れてくれる人が一人でも増えてくれればありがたいわけですからね。もちろん、原作を愛している一ファンとしては、「ここはもったいないな~」とか、「あの場面をカットしちゃうのか~」とか、思っちゃう部分はどうしてもあるんですけど、原作と異なるというだけで角突き出すのはやっぱり違うかなとも感じるので、オリジナルでも良かったところは素直に認めていくという心持ちで書いていきます。あと僕は映画オタクでもなんでもないのでまるで的はずれなことを書いていたりしたら笑って流してもらえれば。ネタバレ大盛りなので未見&未読の方はご注意。


良かった点

①第一章「千谷一也」の演出
 映画が始まってまず「おっ」と思ったのは画面がモノクロだったこと。灰色の毎日を送る一也の心象風景を描くのに、まさかこうやるとは。それでも小余綾と出会うあたりでカラーになるのかななんて思っていたら、第一章ほぼ全部それで通してきたので驚きました。おい、てめ、ふざけんな、早く橋本環奈をカラーで見せろ、という思いもありつつ(笑)、いざ世界が色づいたときのインパクトは素晴らしかったです。


②存在感のある大人たち
 大人たちの存在が、原作に比べてかなりフィーチャーされていたと思います。担当編集の河埜さんは原作だと、もちろん一也たちを導く立場ではありつつもどちらかといえばお姉さんという印象が強かったのに対し、映画の方でははっきりと「大人」ということを感じさせる優しくも厳しい女性になっていました。一也母にもオリジナルのシーンが用意されていたし、一也父の回想は何度も挿入されて強く印象に残ります。片岡愛之助さんによる一也父の味わい深い演技は見事でしたね。原作とは少し印象が違いつつも、魅力あるキャラクターになっていたと思います。


佐藤大樹さんの演技
 僕は普段、本当に邦画もドラマも見ないので、一也役の佐藤大樹さんのことは初めて知りました。EXILEだと聞いてぶっちゃけあまり演技には期待していなかったのですが、荒削りな部分もありつつ、「物語の断絶」のシーンや、ラストで小余綾に電話をかけながら走るシーンなど、目を惹く演技がいくつかあって良かったです。ただちょっと、陰キャ作家の一也にしては体が仕上がりすぎてるかな!(笑)


④橋本環奈がかわいい
 いやもうぶっちゃけこれに尽きる。知ってますか? 橋本環奈ってかわいいんですよ……(全日本人が知ってるな?)。正直、小余綾詩凪としては「うーん」と思うところもいっぱいあります! もうちょっと身長がほしいし、物語を語る場面ではもっと感情豊かに喋ってほしいし、ストーカーを怖がる演技は逆にもう少し抑えてほしかったかなーとか、色々あるんですが、そういった部分を覆い隠すくらい圧倒的に顔がいいので10億点。やっぱり画面に華が出るし、何より美少女作家の説得力がある。ふとした瞬間の表情や、一也を睨むときの眼力の強さにガツンと来るものがあって、やっぱり特別だわって思いました。

「あれ?」と思った点

①九ノ里のキャラクター造形
 たぶん原作から一番変更が加えられたのが彼。原作では物静かで理知的、それでいてときに強引なブレない姿が魅力的な文系少年ですが、映画の方ではクラスの中心にいるタイプの明るく朗らかな陽キャに変貌していて初見ではだいぶ面食らいました。まあこれはこれで悪くないキャラ造形ではあったのですけど、他のキャラクター陣はそこまで大きく変わっていないのに、なぜ九ノ里だけ? という違和感は残ります。「読者」にしかなれないという彼の立ち位置を明確にするためのキャラ付けだったのかなあ。それにしてもちょっと口が軽すぎるんじゃないですかね……?


②なんでテニスに?
 原作でも漫画でも取材に行くのはバドミントン部だったはずなのですが、なんでテニスになったのか……? や、別にテニスでもいいっちゃいいんですけど、なんで? バドミントンじゃ絵面が地味だなってこと? バドミントンならともかく、陰キャな一也がそれなりにテニスできちゃうのはちょっと謎では? この取材のあたりはストーリーも結構変更されていて、原作ではこの一連の流れで一也と小余綾の距離がぐぐっと縮まったところだけに、ちょっとあれれ? と感じました。


③「人間が書けてなさすぎる」はどこに
 小余綾に対する一也の人物評といえば「人間が書けてなさすぎる」だと思うのですが、このワードが映画では一度も登場してこなかったので困惑しました。実に小説家らしい文句でとても気に入っているので、正直残念。

不満な点

①やや演出過多
 良かった点の①と表裏なんですが、ちょーっと演出に重きが置かれすぎてる場面が多かったかなって思いました。各章の始まりとか、謎のPVみたいな映像のバックで歌が流れ出して「えっ何これ」って思ったし、「断絶」の場面で歌が流れたのも個人的にはちょっと安っぽく感じました。お話的に画面が地味になりがちなのでどうにかしたいっていうのも、まあ分かるんですけど。


②秋乃、早々に秘密を知る
 九ノ里のキャラ変の影響もあり、早々に一也と小余綾が商業作家であることを知ってしまう文学少女秋乃さん。やーちょっと、それはさすがに情緒がなさすぎるような気がしませんか……? 別に、彼女がその秘密を知らなければならない必然性もなかったように思うんですけど、どうしてこうなっちゃったのか。


③秋乃の葛藤が丸々カット
 小説を書くことと、小説嫌いの友人の間で揺れる秋乃。そんな秋乃が葛藤の末に思いを吐き出す、そんな姿が原作での大きなハイライトですが、そのあたりの事情は映画の方では完全になかったことに。尺の都合とかで片付けるのは簡単だけれど、秋乃は本当に悩んで悩んでそれでも小説を書きたいと一歩を踏み出すことができた魅力的な女の子なので、そんな彼女の魅力が全部どこかに行ってしまったのは、やっぱりもったいないと感じてしまいます。

全体の感想

 俳優さんの演技や第一章の演出など、ところどころ目をみはるような瞬間もあり、単体の映画としては面白く観られるのではないかなと思います。一方で「小説の神様」としては、ある大きなテーマを意図的に描いていないなとも感じました。それは一也のような日陰の人間と、小余綾のような陽向の人間の対比です。共作の主人公に一也が自分を投影させて主人公像を変えようとする場面はカットされていたし、「人間が書けてなさすぎる」に代表されるような小余綾の完璧っぷりはそれほど描写されていなかったように思います。映画での一也と小余綾はあくまで「売れていない作家と、売れている作家」でしかなく、その他の作家性とか人間性について原作で描かれていた場面はわりと大胆にバッサリ行かれていたなあという印象です。原作ではむしろそのあたりこそが物語の本質だと思うので、原作ファンにとっては結構違和感があるかもしれません。映像として描くにはたぶん難しいテーマでしょうし、分かりやすさ重視だと仕方がないところかなとも感じますが。ただ初めに書いたとおり、俳優さんは良かったですし、佐藤さんや橋本さん効果で新たな客層もゲットできると思うので、この機会に1人でも多くの人が原作や漫画版に触れてくれると嬉しいですね。漫画版は先日3巻(惜しいことに完結巻)が発売されましたが、こちらは原作に沿いつつも新たな魅力を生み出している素晴らしいコミカライズになっているので、原作ファンにも胸を張ってオススメできますよー!

もちろん原作もね! 僕の人生で十本の指に入る大傑作!
小説の神様 (講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)