まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

緑陽のクエスタ・リリカ 魂の彫塑

ストーリー
魔術の才能がからっきしな少年、ジゼル・アンダーブルックリンは、魔術師のための学校の自主退学を決意する。
働くあてもない彼は新たに冒険者を目指すのだが、冒険者の集う酒場《金獅子亭》では全く相手にされぬ始末。
そこで偶然、助けを求めていた半妖の少女、ミリアと出会い、彼女の依頼を引き受けることにしたジゼルだったが……。



魔術師としても冒険者としても力不足な半端者の少年が、ひとえに人を助けたいという思いで戦うファンタジー。
力のない者が、力がないなりに、人を救えるのか。泥臭い少年の頑張りを応援したくなるお話でした。
他人の力を借りまくってもいい。彼にしかできなかったこと、彼だからこそ救えたものが、確かにあったのですね。


主人公・ジゼルは、偉大な魔術師の祖父を持ちながら、特殊な体質のせいで魔術の才能に恵まれなかった少年。
いつまでも落第続きの彼は、ついに学院の自主退学を決めるのですが、かといって他に技能を持っているわけでもなく、少しだけ自信のある剣技だけを頼りに冒険者を目指します。
しかし当然、冒険者の道もそんなに甘いわけがなく。自分と段違いの強さの冒険者たちに圧倒され、馬鹿にされ、追い出され……。
正直、魔術師がだめだったから冒険者になろうというのは、少し楽観的すぎるし情けないような気もしたので、ちょっと痛い目を見ておいてよかったとも思うのですが、いかんせんジゼルに他の行き場所があるでもなく……なかなかストレスの溜まる序盤展開でした。
そんな彼の前に、神や教会から見放され、人々から公然と差別してよいものとされている半妖の少女・ミリアが。
全て金で動く冒険者たちは見向きもしないけれど、ここでこの女の子のために頑張ろうと思えるのは、ジゼルの純粋な美点ですね。自分の生活もままならないのに何を、という意見もありますが、これでこそ主人公。頑張れ青少年。


ミリアから頼まれた人探しの調査の中で、謎の少女・アルミラージと出会うジゼル。
とある理由から、悪魔崇拝者の集団との戦いを続ける彼女は、ジゼルとは段違いの強さを誇る戦士でしたが、でも同時に、孤独な少女でもありました。
なりゆきで一緒に調査を進めるうち、次第に心を開いてくれる彼女。どことなく似たところのある者同士、通じ合うものがあったのかもしれません。
戦いでは、自身の体質を用いる以外、ジゼルは正直あまり役に立ちません。でもその分、思わぬ頭の回転で、彼なりの活躍を見せてくれました。
全てが全てハッピーエンドというわけではないし、結局最後の戦いでも、自分の力だけで、とはいかなかったわけですが、彼らを動かしたのは他でもないジゼルの力です。
魔術師としても、冒険者としても、戦士としてもダメダメでも。諦めずに立ち上がり続けた少年の、勝利です。
新たな居場所を見つけたジゼルが、アルミラージと共に、どういった冒険をしていくのか。これからの展開に期待ですね。


イラストはso-binさん。深い緑色が印象的な表紙で、パッと目を惹かれました。
素朴な色合いがファンタジー世界にピッタリで素敵です。


しかし、結構なグロさのボスだったな……。