まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

“文学少女”と恋する挿話集4

“文学少女”と恋する挿話集4 (ファミ通文庫)

“文学少女”と恋する挿話集4 (ファミ通文庫)

  • ストーリー

大発見です、と叫んで文芸部の部室に駆け込んできた菜乃。
銀河鉄道の夜』のジョバンニとカムパネルラが人間だということを初めて知ったのだという。
カムパネルラはケチっ子だと続ける菜乃に対して、心葉は眼差しを暗くしてしまい……。


心葉と遠子先輩をはじめとした登場人物たちのほのかな恋を描く短編集、第4弾。
わりとドロドロした部分がある本編とはまた違って、ほんのりとした、明るい、もしくはちょっと切ない、たくさんの恋のかけらが、たくさん散りばめられています。
ひとつひとつ胸に染み入ってくるのを大切に抱きしめたくなるようなお話たち。
本編の補完などではなくて、この数々の短編もまた、作品の大切な一部なのだということを感じます。


うじうじ思い悩んでばかりの心葉と、あっけらかんとしているように見えて実は心から心葉のことを大切に思っている遠子先輩は、本当にいい関係にありますね。
この2人の場合、直接恋が描かれているわけではありませんが、何気ないやりとりの中に時々、互いの想いが垣間見えてきゅんとします。
こうやって改めて見てみると、心葉も結構はじめの方から遠子先輩を気にしていたんですね。
それはまだ恋愛対象ではなかったのかもしれないけれど、たぶん文芸部に入った時から、心葉にとって特別な人であったのだろうなあ。
“文学少女”と幸福な子供」が素晴らしかったです。
美羽の幻影にとりつかれて苦しむ心葉。そんな彼とそっと手をつないで、やさしくすくい上げる遠子先輩。
抱きしめるでもなく、特別な言葉をかけるわけでもない。それでも確かに心葉を前へと進めてくれる。
そのお返しとばかりに心葉が書いた三題噺と、その原稿に対する遠子のことばがとても印象的でした。


嬉しいことに、本編後の話もいくつか収録されています。
個人的には、作家として活躍する兄・心葉からなかなか離れられない妹・舞花の初恋を描いた「不機嫌な私と檸檬の君」が大好きですね。
未だに兄のことが好きだということを隠すためにとっさに出した名前。
それを本気にした友人たちに振り回され、迷惑に思いつつも、なぜか相手のことが気になってきてしまう。その揺れ動く少女の淡い恋心がなんともくすぐったい。
ああ、こんな甘酸っぱい恋がしてみたいものです。
書き下ろしの美羽や遠子先輩の後日談もとても良かった。
美羽はなんだかんだで芥川くんとうまくやっていけるのでしょうね。いい相手を見つけたものです。


長く続いたこのシリーズも、次で本当に最終巻。
早く読みたいような、永遠に読まずにいたいような、妙な気分です。