まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ヴァンパイア・サマータイム

ストーリー
人間と吸血鬼が昼と夜を分け合う世界で、両親の営むコンビニを手伝う高校生・山森頼雅。
夕方を迎えると毎日、自分と同じ学校に通う吸血鬼の少女が紅茶を買っていくことに気付く。
いつしか、冷蔵庫の奥から少女の姿を確認することが日課になっていた頼雅だが……。



話題になっていたので読んでみました。
夜にしか生きられない吸血鬼の少女と、昼の世界で生きる人間の少年との淡い恋物語
甘酸っぱいようなほろ苦いような、不思議な味わいのお話でした。決して派手ではないけれど、心に染み入ってくるものがあります。


この作品の吸血鬼は空を飛べたり変身できたりするわけではなく、ただ栄養補給のために血を吸って、それぞれコウモリを飼って、日の光を浴びると焼けてしまうだけの、人間とあまり変わらない生き物です。ただ、日の光を浴びることができないというそれだけの理由から、人間とは時間帯を分けて生活しています。
昼の世界しか知らない人間たち。夜の世界しか知らない吸血鬼たち。お互いの存在を知りながら隣り合って暮らしているのに、ほとんど交流を持たない両者。
唯一、昼と夜が入れ替わる夕方だけが出会いの時間で、そのわずかなチャンスをつかんで恋が生まれる。ロマンチックではないですか。
ヨリマサと冴原の出会いもちょっとした偶然から生まれたものでした。
たまたま声をかけてかけられて、なんとなく話すようになって、いつの間にか好きになって、友達からからかわれながら、恐る恐るアプローチしていくふたりの様子がなんとも初々しくじれったい。
違う時間を生きる者としての葛藤もありながら、惹かれていくことだけはどうしようもない。悩ましくも素敵な恋の姿がありました。


ヨリマサと冴原、両方の視点から描かれる絶妙な思いのすれ違いがとてもいいですね。きゅんきゅんしちゃいます。
こちらからしたら、もう明らかに好き合っているんだからことばにしちゃえばいいのに、なんて無責任にも思ってしまうのですが、当人たちにしてみれば、やっぱりそんな簡単にはいかないもので。
何度も何度も核心に近づくのだけれど、すぐにまた離れてしまう。そんな場面のたびに、思わずため息をついてしまいます。
吸血鬼の本能とか、そういう話まで絡んできちゃって、いやそりゃ種族の違いとかね、意識しちゃうのは当たり前だと思うんですけど、ああもう面倒くさいな! 早くくっつけよ! ちゅーしろよちゅー! ……なんてことに。
なんかよく分からないけどやたら疲れる恋愛でした。もちろんそれがいいんですが。でも疲れるもんは疲れます。くっついたらくっついたであれですもの。もうやっていられませんわ。
もうヨリマサも冴原も放っておいて影宮に癒やされたい。影宮かわいいよ影宮。ヨリマサと冴原はそうやってふたりでずっとイチャイチャしていてください。


イラストは切符さん。おぼろげな絵柄がまさに夏の夜といった感じ。
ヨリマサの夢はこう、もっとはっきり……だめか、夢だもんな……。


影宮のコウモリになりたい。もしくはジャージ。