まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

グランクレスト戦記 1 虹の魔女シルーカ

ストーリー
“大講堂の惨劇”によって世界中の君主たちが独立を強いられ、今にも大戦が巻き起ころうとしている大陸。
理念なき君主たちを軽蔑する魔法師シルーカは、任地へ赴く道中、故郷の解放のために放浪する騎士テオと出会う。
テオの志に心動かされたシルーカは、その場でテオと主従の契約を結ぶのだが……。



ずいぶん力の入った宣伝ぶりと、水野良×深遊という豪華なコンビに目を引かれ、何より見るからに面白そうな雰囲気を感じて手に取りました。
水野良先生の作品は初めて読んだのですが……これは凄い。参りました。文句のつけようもないくらいに面白かったです。
きっちり作りこまれた舞台設定、きらめくキャラクターたち、驚くほどテンポよく、それでいてボリューム感たっぷりに進むストーリー。ああ、またひとつ大好きな作品が生まれてしまった予感……。


主人公(といっても基本的には群像劇らしいですが)は魔法大学を卒業したばかりの少女・シルーカ。この世界の魔法師はただ魔法を使うだけでなく、聖印を持つ君主に仕え、側で助言を加える謀臣としての役割も果たすようです。
シルーカは魔法もさることながら軍略にも秀でていて、彼女が力を貸すことでただの流浪の騎士だったテオがどんどん大きな君主となっていく……というのが主筋。まるでシルーカによって全ての物語が動いていくような気さえして、ただの主人公どころではない重要性を感じるキャラになっています。
そんなシルーカはとにかく魅力的。思慮深い部分があるかと思いきや大事なところで直情的だったり、自信満々でありながら意外と打たれ弱かったり、とにかく色んな顔を見せてくれるので飽きません。丁寧語というのも個人的に高ポイント。頼りになるのに可愛いとかずるい。
一方、彼女が身を預けることになるもうひとりの主人公・テオ。騎士としても力があるとは言いがたく、まだまだ成長途中という様子の彼ですが、シルーカに認められたその信念だけは主人公にふさわしいもの。
出会った途端にまるで事故のように契約を結んだ両者が、いくつもの波乱を一緒に乗り切っていく中で本当の絆を結んでいくのが良かったです。
他にも、シルーカの貴重な戦力となるアーヴィンとアイシェラ、愛らしき猫の妖精バルギャリー殿下、人間味があって妙に憎めない敵の君主たちなどなど、どこを見ても楽しいキャラだらけ。次にどのキャラがどんなふうに動いてくれるのかが楽しみで目が離せませんでした。


さすがといいますか、物語の進ませ方がたいへん上手く感じました。力を入れる部分はとことん描ききるけれど、飛ばすところは気持ちいいくらいにすっ飛ばす。お話の流れにメリハリが生まれるから、かったるくならずに一気に読めてしまえるんですね。
ぽんぽん飛ばすおかげで物語もえらい早さで進んでいきます。1冊の中にどこまで盛り込んじゃうの! というぐらいに、ぎゅっと凝縮されたストーリーになっていました。
特に第4章以降は素晴らしかったですね。目まぐるしい展開というのはまさにこのこと。ただスピーディーにしているというわけではないから、薄っぺらく感じることもなく、それでいてぐいぐいとお話が進んでいく快感。ううむ、なんというバランス感覚か。
ストーリーの大きな山はラストで一旦落ち着きました。次はまた新たな山が待ち受けているのでしょう。さらなるシルーカの活躍を早く見たくて仕方ないですね。楽しみです。


イラストは深遊さん。いやはや、ただただ拍手をするばかり。
特にお気に入りなのは「シルーカの微笑み」でしょうか。めちゃくちゃ格好良かったです。


同プロジェクトの他の広がりにも期待です。