まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

“末摘花” ヒカルが地球にいたころ……(5)

ストーリー
夏休み。帆夏とプールにいくはずが、なぜか紫織子同伴になり、張り合う二人に振り回される是光。
一方で、ヒカルの次の“心残り”を晴らすために動き始めるが、今度の相手はネットで知り合ったという名も顔も知らない少女だった。
ブログの記事を唯一のヒントに、約束の喫茶店を訪れる是光とヒカルだったが……。



恐れていたことが遂に現実に、というか、まあ毎回毎回違う女の子を落としていたら当然こうなるよね、というか。
いよいよ是光に好意を寄せるヒロインたちがお互いのことを認識し始めて、いわゆる修羅場へと突入し始めました。
ハーレム願望どころか女の子と付きあおうという気さえないのにも関わらず、どんどん華やかになっていく是光の周辺。
帆夏としーこの子供っぽい争いや、帆夏と葵の予想外のタイミングでの出会いなど、むずむずするイベントが目白押しで、頬のにやけが抑えられませんでした。
是光の言動にいちいち一喜一憂して、心配したりヤキモチやいたり、つい怒鳴ってしまってあとから落ち込んだりしているヒロインたちを見ていると、もう「全員幸せになってほしい!」と願わずにはいられないのだけれど、残念ながらそうはいかないのでしょうね……。
とりあえず、しーこの出番が結構あって個人的には大変おいしかったです。前巻ではあまり登場してこなかったので少し不安だったのですが、これからもきちんとヒロインのひとりとして活躍していってくれるのだなと安心できました。
9歳の女の子とはいえ、今までのヒロインの中で一番是光に迫っているのは間違いなく彼女ですから、彼女に張り合おうとする帆夏の女の勘はかなり正しいといえます。大人げないことは確かですけどね!


今回のヒロイン“末摘花”は、ヒカルがネット上で知り合ったために顔も名前も知らないという謎に満ちた女の子“サフラン”さん。
あちらの顔が分からないということは、すなわちこちらの顔も知られていないというわけで、数多くの女性を参らせてきたその美貌がなくとも女の子を落とせてしまえるヒカルさん、やっぱり天性のハーレム王子なんですね。
目印の帽子をかぶってきた是光の顔を見て、怖くなってしまい、自分の正体は明かさずにずっと観察しつづけるサフラン
自分を探しにきたはずなのに、ウェイトレスのバイトをしている葵(!)を見つめ続けたり、美少女や美幼女や美人と連れ立っていたりする是光を見て、勘違いしてしまうという、彼女視点の描写がとても面白かったです。
私たちは、是光がそんじょそこらの男よりも遥かに素晴らしい人間なんだということを知っているけれど、はたから見たら、怖い目をしたヤンキーの周りに、可愛い、しかも純朴そうな女の子たちが群がっている様子は、やっぱり相当異様な光景に映るんでしょうね。


姿を見せないサフラン探しも今までにない感じで楽しかったのですが、それと並行して、今回は帆夏とのイベントが豊富でした。
紫式部”であろう彼女は、各巻ごとのヒロインになれない分、どうしても彼女主体のお話になりにくいという弱点があります。
その代わり、毎巻しっかりと登場して、着実に是光とのやりとりを重ねていけるという有利な点もあって、今回はそこが強く出ていましたね。
是光にとっては、唯一ヒカルを通してではなく、彼自身が仲良くなった女の子ですから、そういった部分でも彼女は特別な女の子になり得るのだろうと思います。
なんとも珍しいことに、是光が自分から「女の気持ち」を考えて動くことができたというのも、これまでに彼女と積み上げてきたことがあったからなのでしょう。
今回かなり追い詰められていた帆夏のことを考えると、よかったと思う一方、同時に葵も応援している私としては、なんとも微妙な心境です。
葵は、彼女の担当巻が終わってしまったということで、逆にこれからは不利が重なる一方だと思うんですよね。
是光、帆夏、葵。今後の恋模様の動き方には、今まで以上に注意して見ていく必要がありそうです。
もちろん、しーこエンドの可能性だって信じていますよ! ワン。


“末摘花”は、ひと言でいえば、自分の容姿に悩む普通の女の子の恋のお話でした。サフランと、それから級長と。
葵や夕雨、紫織子、月夜子と、絶世の美少女ばかりが続いたし、お話ではそういった女の子ばかりが描かれがちだけれど、光り輝く存在に憧れながら、陰でひっそりと咲く彼女のような女の子だって、きっとたくさんいるのでしょうね。
すべての花を愛するの宣言どおり、麗しくあでやかな花ばかりではなく、そういったちょっと風変わりだったり、地味だったりする花まで心から愛せてしまえるヒカルに、改めて感服させられました。本物のモテる男っていうのは、違うなあ。
さて、次回はなんと“朝顔”。満を持しての朝衣お嬢様のターンです。
今回とは違ってだいぶ暗めの物語になりそうな予感ですが、サンタさんだのツチノコだの、さりげなく可愛いところもさらけ出しつつある朝ちゃんの魅力を、さらに思う存分描いてくれるだろうと期待しています。次の巻も実に楽しみですね。


特装版ということで付属のドラマCDも聴きました。ヒロイン役の声優陣がハマリ役で良かったです。帆夏と葵の出会いという超重要イベントもこちらに詳しく収録されているので、ぜひ。