まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

とある飛空士への夜想曲 上

とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

  • ストーリー

無愛想で自由奔放だが、飛空士としての腕前は飛び抜けている天ツ上海軍の撃墜王・千々石武夫。
その腕を見込まれ、次期皇妃を乗せたレヴァーム皇国軍の飛空士「海猫」を墜とすことを命じられる。
ところが千々石は、独断専行で一騎打ちを仕掛けたあげく敗れてしまい……。


「追憶」で主人公の「海猫」シャルルの好敵手として描かれていた「ビーグル犬」、千々石を主人公に据えた物語。
天ツ上側から見てみると、あの戦争の様相もがらりと変わって見えて興味深いですね。
シャルルのこともあり、負けっぱなしということもあり、ついついレヴァーム側を応援したくなってしまうのだけれど、まあ仕方ない。


毎日炭鉱でこき使われ、毎日仏頂面で誰も寄せ付けなかった千々石と、ある女の子との出会い。
未来の見えない千々石を動かしたのは、やはりここでもそう、歌と、もしかしたら、小さな恋と。
いつもむすっとしている千々石でも、これだけ開けっぴろげでおおらかなユキと接していれば、自然に心も開くというものです。
一度自分の未来を決めてからの千々石は凄かったですね。
こんな環境で、飛空士になることだけを目指して、死にものぐるいで頑張り続けました。
もちろん、隣にユキがいたことが彼の大きな原動力となっていたのでしょう。
目標は違えど、夢を追う者同士。光に向かって突き進むふたりの姿はとても眩しい。


後半では、海猫との戦い後の、レヴァームとの戦争が描かれます。
そう、「追憶」は姫を送り届けて終わりましたが、あの後も戦いは続いていました。
繰り返される空戦。空を自在に飛び回り、次々に敵機を墜としていく千々石の凄さに、改めて気付かされます。
そんな中、千々石のいる前線基地に表敬訪問でやってきた、大人気歌姫・水守美空。
なるほど、そういうことか! ああ、これは熱いなあ!
お互いに光をつかんだふたりがここでまた出逢うわけですね!
いきなりの口調の変化と、たじたじになる千々石に、ニヤニヤが止まりませんでした。
しかしそれだけに、千々石が彼女に告げたことばは、あまりに切なく、胸に染みます。
もうあの頃に戻るには時間が経ちすぎていて、空という静かで非情な舞台しか見ることができなくなってしまっている千々石が、とても悲しい。
海猫とまた戦えば、彼も解放されるのでしょうか。これでお別れなんてことはないよね。そう信じます。


それにしても際立つのは海猫の格好良さ。直接登場はしないのに、こんなに存在感があるのはなぜでしょう。
「単騎敵中翔破一万二千キロ」という「追憶」での偉業がここまで評価されていると、こちらまで嬉しくなってしまいますね。
もっとも、肝心のレヴァーム国内ではほとんど知られていないというのが、なんとも悔しいところではありますが。
さんざん思わせぶりにしておいて結局出番のなかった海猫ですが、次巻ではきっとまた、千々石との名勝負が見られることでしょう。
その戦いで千々石は何を得るのでしょうか。そして勝負の結果は、戦争の結末はいかに。
今から楽しみでなりません。ああ待ち遠しい!


今度はおかゆですか。絶対この世界の食材には何かおかしなものが含まれていると思うのですが、気のせいですか。