まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

火目の巫女

火目の巫女 (電撃文庫)

火目の巫女 (電撃文庫)

  • ストーリー

その国は化生と呼ばれる異形の怪物たちに脅かされ、人は化生を討つ弓のただ一人の射手“火目”の存在により彼らに対抗していた。
化生に村を焼かれた伊月は、火目候補“御明かし”たちが集う火垂苑に入り、未来の火目を志す。
ある日、新たな御明かしが火垂苑に加わることになったのだが、彼女・常和は年端もいかぬ少女で……。


長年読もう読もうと思っていた杉井光先生のデビュー作。
噂に聞いていたとおり、なかなかに重くて胸をえぐられるお話でした。
舞台は具体的には明かされていませんが、どことなく平安チックな和物ファンタジーですね。
国じゅうで唯一、化生を焼き滅ぼす矢を射ることができる正護役、火目。
なんだろう、巫女と弓と炎の組み合わせには実に心をくすぐられるものがある。
弓を構えて矢をつがえれば、凛とした空気。一直線に飛ぶ光の矢は、全てを焼いて浄化する。想像するだけでため息をつきたくなるような美しさを感じます。


物語の中心は、三人の火目候補、御明かしです。
化生に対する憎しみから、誰よりも懸命にまっすぐに修行に励む主人公、伊月。
盲目で、しばらく弓を射ていないものの、どこか力があることを予感させる佳乃。
無邪気で小さな女の子なのに、素晴らしい弓の腕前と火目式の才能を持つ常和。
中盤までは、伊月が他の二人への引け目から彼女たちとぶつかり合い、思い悩むさまが描かれました。
小さい頃に全てをなくして、火目になることだけを常に考えてきた彼女だけにその苦悩は深く、めったやたらに射る弓がとても痛々しい。
けれど、がむしゃらに頑張って、周りの人に迷惑をかけたり、助けてもらったりしながらも、自分の道を切り開いていく伊月は格好良く見えました。
基本的に張り詰めたお話の中、次第に温かさを増していく常和とのやりとりにはほっとさせられます。
全てが謎に包まれた童子・豊日もいいキャラしてましたね。伊月につかず離れず、優しく包んで見守っている感じ。保護者に近いかな。


化生との戦いを経て、火目に隠された秘密に近づいていく伊月。
当代の火目の退位と交代が発表されて物語は急転直下。一気に突き落とされました。
まず豊日に驚かされ、そしてああ、常和が、佳乃が。なんでこんな、他に何かやり方が……ああ、ああ。
起こらないで欲しいと思ったことがあまりにあっさりと実現してしまって、逆に呆然としかけました。
色々ありすぎて上手くことばに出来ないのですが、なんとも、やるせない気持ちです。
それでも、新たな火目が放った最後の灼箭には、流石にぞくっとせざるを得ませんでした。ひとつになった。そんな気がします。


苦くて、辛くて、切なさが心に染み渡るお話でした。
伊月はこれからどうなってゆくのでしょう。ある意味、綺麗に締まっているので、全く予想がつきません。
続きが気になって仕方ない。早く読まないと。


イラストはかわぎしけいたろうさん。表紙の迫力が凄いですね!
要所要所の佳乃のイラストには背筋が凍りました。たまらん。


佳乃さんになら燃やされてもいいかもしれない。