まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

“葵” ヒカルが地球にいたころ……(1)

  • ストーリー

見た目のガラの悪さのせいで周りから避けられてばかりの是光に、初対面で笑顔を向けてきた学園の“皇子”ヒカル。
是光に頼みごとがあるというヒカルだったが、頼みごとを聞く前にヒカルは事故で亡くなってしまう。
ところが、葬式から帰った是光の前に、ヒカルの幽霊が現れて……。


野村美月先生の新作が早くも登場。前作の興奮さめやらぬうちに新作が読めるなんて……! 嬉しい限りです。
源氏物語をモチーフにしているようですけど、詳しくないのでヒカル(=源氏)が全方向にモテモテだというネタしか分かりませんでした。不覚。


主人公は、見た目でヤンキーだと勘違いされ友達ができない心優しきやさぐれ少年・赤城是光。
出だしからずっとヤンキー扱いされていて、もう不憫で不憫で仕方ない。
いかにも貴族じみた私立学園の中では、確かに多少ガラが悪く見えるかもしれないけれど、心根はまっすぐだし言い訳もしないし根性もあるし、とてもいいやつなんですよ。
見た目のイメージっていうのは大きいものですが、ここまで来ると流石にいじめの域ではないのか。集団って怖い。
これだけ色々言われ続けて、是光はよく爆発せずにいられるものです。短気のようにも見えますけど、実はかなりの忍耐力の持ち主なんじゃないかな。
そんな是光に取り憑いた幽霊が、生前天使のようなルックスで女の子の視線を独り占めにしていたという学園の皇子・帝門ヒカル。
息をするように女の子を口説くスーパーイケメン。婚約者がいるのにばかじゃないのかとは思うけれど、なぜか憎めない。ずるいキャラですね。
男主人公に男の幽霊が憑くというのはわりと珍しいような気がします。幽霊とか精霊とかってわりとヒロインポジションだと思うのですが、偏見ですかね。
もっともこの作品の場合、ヒカルこそが真のヒロインだという気もしなくもないので、そう考えればどこにも問題はない、のか?


とはいえ一応、物語でのヒロインはヒカルの婚約者だった少女・左乙女葵。
死んだヒカルに悪口ばかり言うわ、人の話は聞かないわ、なんて女の子だと思ったけれど、全てを知った後から振り返ると実に可愛く健気な娘じゃないですか。
いや確かに帆夏も可愛いよ! びっくりするくらい可愛いけど! すみません、やっぱり私は葵派です!
深窓のお嬢様口調も素敵だし、ほっといたら何しでかすか分からない危なっかしさがたまらないんですよねえ。


ヒカルが亡くなってしまっているだけに、描かれる恋愛は甘くも苦く、切ないものでした。
浮気ばかりしていたヒカルがやっと本気になったのに、葵にはそれが届かない。
まあ、葵が意地っ張りだということ以前にヒカルの浮気性が問題だったことは明らかですけどね。何やってんだよこいつ。
とはいえ、これだけ切実に願っている想いが届かないのは悲しいし、淋しいもので、是光がその想いに打たれて行動に走った気持ちも分かる気がします。
いやあ、ほんと是光が格好良いですねえ。誰からもそっぽを向かれながらも、大切な友人のためにひとりで走りまわるなんて、まさにヒーローそのものですよ。
是光が必死の思いで届けたヒカルの気持ちは、とても美しく、きらきらと光っていて、胸をきゅっとしめつけました。ああ、良かった。


恋愛描写も素晴らしいし、是光とヒカルの間に次第に生まれてくる友情も熱いし、色んな楽しみ方ができる作品だったと思います。
不穏な謎を残しての幕切れだったこともあり、続きがとても気になりますね。
ナチュラルタラシ・是光の今後や、葵や帆夏との関係がどうなってゆくのかにも期待が高まるところです。


イラストは前作に引き続き竹岡美穂さん。穏やかで透明感のある色遣いが本当に魅力的ですよね。
作品の雰囲気に最高にマッチしたイラストだと思います。幼少是光には思わず笑ってしまいました。


『夕顔』『若紫』『朧月夜』と続くそうですが、今から若紫編が楽しみで仕方がないのは私だけではありませんよね! ね!