まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ココロコネクト ヒトランダム

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

  • ストーリー

文研部に所属する五人、八重樫太一・永瀬伊織・稲葉姫子・桐山唯・青木義文は、奇妙な現象に直面していた。
ある日突然、青木と唯に“人格入れ替わり”が起こってしまったのだ。
それは次々と部員全員に襲いかかり、彼らを異常な日常へと放り込んでいく……。


第11回えんため大賞特別賞受賞作品。
男女5人に起こった人格入れ替わりと、浮かび上がる少年少女の心の傷を描いた青春物語です。
人の中身が入れ替わるというのはわりと昔からあるテーマだと思いますが、5人の中でランダムにというのはわりと珍しいかも。
初めのうちはキャラがごちゃごちゃしてかなり読みにくく感じました。
まあ慣れてくるとあまり気にならなくなるし、その混乱っぷりがまた楽しくもあるのですが。


物語は、入れ替わりのドタバタから、次第に登場人物たちがもつ影の部分の話へとシフトしていきます。
どんどん重い過去や悩みが出てきて、コメディタッチがいつの間にかとても息苦しくなっていました。
それにしてもこのキャラたちは、あえて語弊のある言い方をするならば、ずいぶんしんどい生き方をしているよなあ。
思春期といえばもちろん悩み多き時期ではありますけど、ここまで色々なものを抱えた高校生はめったにいないのではないでしょうか。それが集まるとなると尚更。
彼らは、自分ではどうしようもない悩みに対して深く考えすぎて、自分で自分の首をしめるように、苦しさを大きくしてしまっていると思うんですよね。
もっと簡単に考えられればいいのだけれどそうもいかなくて、かといってやっぱり怖いから、悩みときちんと向き合うことができずにいる。
それでも彼らはそんな苦しみの中で必死にあがいていて、そんな姿がなぜか愛おしく感じられます。悩めよ少年、というやつですかね。


太一は本当におせっかいだなあ! ここまで他人のために思い切れるのは一種の才能だと思います。
相手を傷つけることを恐れながら、それでも相手の力になろうと一歩を踏み出すのがどれほど大変なことか。
でもそうやって踏み込んできてくれるからこそさらけ出せるものがあって、救われるものがある。
おせっかいもここまでくると褒め言葉です。そりゃあモテるよね。
確かに凄いけれど、いくらなんでも、ここまで何もかも上手くいくものだろうかとも思います。ええ、嫉妬ですが、何か。


終盤に怒涛の展開が待ち受けていて、張り詰める切なさに胸がぎゅっとなりました。
涙ながらの永瀬のことばが突き刺さります。恋ってどうしてこんなに甘酸っぱくてほろ苦いのかな。
とりあえず話は一段落したけれど、少しずつ変わりつつあるこの5人の関係がこれからどうなっていくのか、とても気になりますね。
もっとドロドロした展開になるような予感も。特に稲葉の思いには注目したいところです。


イラストは白身魚さん。柔らかな絵柄が可愛らしいですね。
カラーページは色遣いに透明感があって、ちょっと切ない気持ちにさせられました。