まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『死に挑むワルキューレ 紡がれし運命のサーガ』感想

死に挑むワルキューレ 紡がれし運命のサーガ (角川ビーンズ文庫)

ストーリー
流行り病の弟を助けるため、高額な報酬と引き換えにワルキューレとして戦場に出ることを決意した心優しき少女・ソフィー。戦場で出会った将軍・イェンスは、新入りの彼女を認めず突き放されてしまう。しかし諦めず一生懸命に戦うソフィーの姿が、彼の態度に隠された過去を解きほぐしていく。信頼できる相手となった2人は、残された僅かな希望を掴むべく共に戦う――。
「君は、死なせないから」第18回小説大賞〈奨励賞〉受賞作!

第18回角川ビーンズ小説大賞〈奨励賞〉受賞作品。弟を助けるため死と隣り合わせの戦士・ワルキューレになった少女が、気難し屋の若き将軍と出会い、戦いの中で心を通わせていくロマンファンタジー
敵の死神を討つためだけの存在として戦場に駆り出されていく、ワルキューレという設定が切なくて良かったです。
ソフィーとイェンス、優しいからこそ不器用な二人が、誤解や悲しみを経てゆっくりと絆を深めていく展開に胸がきゅっとしました。


ワルキューレ。魔術で半死人の状態となることにより、敵軍が繰り出す死神を視認・攻撃できるようになる少女戦士たち。噂によれば戦場での死亡率は十割だという。
弟の薬を買うためにそんなワルキューレへ志願した少女ソフィーは、若き将軍イェンス付きとして戦場に出ることになる……。
右も左も分からない平民のソフィーは、戦の中で少しずつワルキューレについて知っていくことになるわけですが、このワルキューレという設定の儚さがなんとも切なくて味わい深いですね。
死神に対する唯一の対抗策ではあるのだけれど、敵の兵士に攻撃することはできず、逆に自身は元々軍人でもない少女だから敵兵士には狙われやすく、命を落としやすい。いつ死ぬか分からない状況にいるからこそ、自身と組んだ戦士たちと刹那的な愛を深めたりする。悲しい少女戦士たちの生き様に胸が痛みます。
そんなワルキューレたちの中、ソフィーの心の支えになってくれた先輩のローネが良いですね。組んでいる少年将校のヨアンから心を寄せられながらも、過去娼婦だった自身とそういう関係になるのはよくないからと、あくまで側付きの戦士として彼を守り支える。魅力的なキャラクターでした。


ソフィーと組むことになったけれど、なぜか彼女と必要以上に近づきたがらないイェンス。その秘密は過去に隠されていました。
イェンスは一見愛想がないけれど、その実とても温かくて誠実な心を持っている男です。ともに戦う中で少しずつお互いへの信頼が芽生え、お互いのことをゆっくりと知っていくソフィーとイェンスの不器用な愛情が素敵ですね。
ソフィーはイェンスのことがいつの間にか好きになっていて、でもイェンスのことを知っているからこそそれを表に出すことはできない、その淡い恋の苦しさにきゅんとします。
いつしか固い絆で結ばれた二人が敵国の中枢へと乗り込んでいく緊張の展開にもワクワクさせられました。敵国が生み出す死神の謎、その影に隠れた魔術師の存在。絶体絶命の瞬間、イェンスのために動くソフィーが格好良かったです。
ソフィーの不器用さにもだもだしちゃうエピローグも良き。


イラストは鳴海ゆきさん。表紙のソフィー、凛としていて好きですね。
あとやっぱりラストの1枚。胸があったかくなりました。


マグヌスさん結構好き。

『少女願うに、この世界は壊すべき2 ~輪廻転生の神髄~』感想

少女願うに、この世界は壊すべき2 ~輪廻転生の神髄~ (電撃文庫)

ストーリー
弁財天と寿老人を退け、榮凛島の崩落を食い止めた神津彩紀と熾天寺かがり。これで平穏な生活をおくれるかと思いきや――2人の家は燃やされていた。犯人は七凶神の大黒龍僖。新たな彩皇に狙われた2人の元に、朝廷からの使者、稲名田湯津香がやってくる。
「寇魔を倒すべく協力しませぬか?」
さらに、新たな仲間を求めて人間の楽園と呼ばれる『盈水院』を統べる大僧正、毒針倶舎奈のいる寺院を目指すことに。しかし盈水院で待ち受けていたのは、嘘をつかないと、酒を飲まないと、人を殺さないと死んでしまうという、仏教の五戒を破らなければならない奇妙な町と怪しい住人たちで――。

ついに下界に降り立った彩紀とかがりが、謎めいた彩皇・倶舎奈の作り上げた怪しげな楽園に囚われてしまう第2弾。
仏教をテーマにした奇妙な舞台設定、深まる謎、ひたすら我慢させて最後に爆発するカタルシス。今回も純粋に楽しめるエンターテインメントが繰り広げられました。
ミステリアスな敵役として登場する毒針倶舎奈もなかなか魅力的で良かったです。


七凶神に対抗するために朝廷から協力を求められた彩紀。榮凛島から降りた彼がかがりと案内役の人間・湯津香とともに道すがら立ち寄ったのは、もう1人の彩皇・倶舎奈が統べる大寺院。
一度入ったら二度と出られないという掟こそあるものの、倶舎奈は人当たりのよい少女で、人々も一見幸福に満ちた生活を送っている。しかしこの寺院のことを探れば探るほど、隠された闇が明らかとなり、ここがただの楽園ではないことが次第に分かっていく。
下働きとして健気にお勤めしている優しげな少女が、死体を目にして全く動じなかったりといった、「おや?」という怪しさを少しずつ集めて怖さをかきたてていく描写が上手いなあと感じました。こうしていると登場人物がみんな怪しく見えてくる……。


楽園の裏に隠された倶舎奈の目的。そして倶舎奈も知らない黒幕の目的。全てが明らかになった時、倶舎奈に真っ向から対峙する彩紀とかがり。
倶舎奈が作ったが故に彼女こそが法である、そんな圧倒的不利の中、彩紀は絡め手を用いつつ、かがりは純粋な意思の力で、それぞれ「らしさ」を出しながら立ち向かってゆく姿が熱くていい!
それにしても倶舎奈はいいキャラしてました。とある一つの目的のためだけにやらかしてることのスケールのデカさがすごい。普通にやべー奴なんですけどどこか憎めない可愛げもあるし、やっぱり愛が重くて危険なタイプのヒロインが好きなんだわ……。
そしてそんな彼女に散々やられながらも、最後の最後では御しきれない輝きを見せてくれたかがりのヒロイン力の高さには感服しました。普段のザコみたいな言動のわりにしっかり決めるとこ決めてくるのがずるいんですわ。かがりは強くて可愛いメインヒロイン!
順調に面白さを増してきているだけでなく、今巻でもしっかりタイトル回収までやってのけている隙のなさに拍手。これは楽しみなシリーズになったなあ。次巻待ってます。


パラパラやってて気づいたけどイラストのクオリティが全体的にめっちゃ高い。

『茉莉花官吏伝 九 虎穴に入らずんば同盟を得ず』感想

茉莉花官吏伝 九 虎穴に入らずんば同盟を得ず (ビーズログ文庫)

ストーリー
分裂の危機にある叉羅国が他国に攻め込まれた! 急ぎ帰国命令の出た茉莉花に、ラーナシュは白楼国の皇帝・珀陽の力を借りたいと頼む。だが、旨みのない同盟は結べないと珀陽はきっぱり拒否。文官と個人の間で揺れ動く茉莉花の心を見抜いた珀陽は『ラーナシュと暁月の違い』の話を茉莉花にしたあと「私を、文官として負かしてみてくれ」と告げ!?

茉莉花、危機に瀕した叉羅国を救うべく陰日向に奮闘するの巻。
侵略してくる他国だけでなく叉羅国の人々とも敵対してしまう中、ド派手な作戦で全部ひっくり返してしまう展開が痛快でした。
シリアス続きではあったけれど、そんな中でもラーナシュとシヴァンはコミカルに動いてくれて楽しいなあ。


叉羅国の二重王朝問題の解決のために動く中、突如として隣国の軍勢が叉羅国へ攻めてくるとの情報が。
茉莉花は白楼国の文官だから、このような緊急事態に叉羅国に残ることはできず。珀陽の力を借りるためラーナシュとの面談の場を設けたけれど、色よい返事をもらうこともできず。
自分の、白楼国の文官としての立場もだんだん分かってきていて、でも自分によくしてくれたラーナシュたちのことを完全に見捨てるようなこともできなくて、この有能さと善良さの狭間にいるのが茉莉花の良さでもあるのだけれど、なかなかに息苦しい。
そしてやっぱり腹黒いなこの皇帝! まあ一国の王だから慎重になるのは当然とはいえ、この交渉のやり方は、どうにもそれ以上に性格的な面が大きく出ているような気が……。茉莉花と文官として対決、なんて銘打たれてはいたけれど、彼女が本当に珀陽を負かせられるようになるまでには、いま一歩というところでしょうか。
まあもっとも? 恋愛方面の駆け引きでいうならば、逆に茉莉花のほうがだいぶ先を行っているようにも思えますが……茉莉花さん天然タラシすぎる……。


どうにか停戦へこぎつけて、ようやく始動する二重王朝問題の解決作戦。しかし今度は、叉羅国の内部から異国人を追い出せとの反発が。
それぞれの国の事情があるとはいえ、叉羅国のために懸命になっている茉莉花やラーナシュたちがこんな風に排斥されるのは悲しいしため息が出てしまうな……。
対立が深まる中、とうとう起こってしまう大事件。他国人を信用しようとせず、国よりも家を重んじるという人々の心へ訴えかけるためにはどうしたらよいのか。
茉莉花一人では当然限界がある中で力になってくれる、ラーナシュやシヴァンや、それぞれの家の使用人たち。家と家の確執があっても、憎しみをこらえて協力してくれようとする人たちの協力を得て、国を変えるための伝説を作り上げていくさまに胸が熱くなりました。この感じ、なんだか赤奏国編を思い出しますね。
宴でのソマラの様子には救われた気持ちになりました。形式上の片が付いたからといって人々の心のしこりはまだまだ残っていて、でも彼女のような若い風が、きっとまた新しい時代をこの国に運んでくれるのではないかなと思います。
そしてラスト、またもや気になる引きを準備してくれていてとてもずるい。これまで茉莉花が成し遂げてきたことが、最悪の結果につながってしまうのか否か。次巻も楽しみにしています。


完全にギャグ要員と化しつつある自称親友コンビがめっちゃ癒やし。