まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『声優ラジオのウラオモテ #03 夕陽とやすみは突き抜けたい?』感想

声優ラジオのウラオモテ #03 夕陽とやすみは突き抜けたい? (電撃文庫)

ストーリー
声優生命の危機も一段落。目下やすみの悩みは――仕事が無い! そんな崖っぷちに舞い込んだのは、夕陽主演アニメの宿敵役!? やっとつかんだ大役に意気込んだのも束の間……
「あんた今、周りに迷惑だから」「すげーやりづらかったよ」
容赦なく突きつけられる、一流の壁。できない、苦しい、まだ足りない、それでも――
「あんたにだけは――」「あなたにだけは――」「「負けられない!!」」
突き抜けたいふたりの声優ラジオ、熱い声援を受けて、まだまだON AIR!!

向かい風は高く飛ぶためにある
千佳のライバル役に抜擢された由美子の声優としての挑戦と挫折と奮闘と成長を描くシリーズ第3弾。
あーーーーー、最っ高に熱くて面白かった!! 新人声優をテーマにしている以上、いつかこういう場面が来るとは思っていましたが、それは予想以上に辛くて苦しくて、でもだからこそ戦い抜いた先にあるものが輝いて見える、そんな回でした。
お互いに最大のライバルで負けられない相手だけれど、本当に追い詰められてからは一番頼りになる仲間なんだっていう二人の関係が尊すぎてつらい……無理……めくるちゃんになっちゃう……めくるちゃんマジ完全同意ぃ……。


千佳主演の神代アニメ『幻影機兵ファントム』に、主役のライバルキャラという大きな役柄で出演することになった由美子。今までに演じたことのない役柄であり、周囲は自分より遥か上のベテラン声優ばかりという状況でもあり、彼女にとってとても大きな挑戦に。
ところが意気込んで参加した初アフレコでは、由美子だけがリテイクを繰り返し、演技を変えようとすればするほど崩れていってしまい、周囲を待たせてしまうばかりか、アフレコへの姿勢を尊敬する先輩声優に叱られる始末で……。
いやあ辛い。辛すぎる。ある程度は覚悟して読んだのにそれでも胸が痛いんですけど……。声優ってキラキラしてるだけの職業じゃないんだなあ。当たり前なんだけどさ。
千佳の一言がとどめになって、いよいよ暗闇に落ちていくかと思われたところで、しかしここで叫びながら立ち上がるのが由美子らしい。
できることは全部やって、みんなに協力してもらって、学校の友達にも気を遣ってもらったりして、それでやっと少しだけ前に進む。そんな由美子の強さがやっぱりとても魅力的で、格好良かったです。


どうにかひとつ乗り越えても、求められるものはまだ先に。歌種やすみに期待されているものはもっともっと先にあった。主役のライバルとしての最大の見せ場を前に、由美子はまた足踏みをしてしまう。
できることを全部やっても、それでも手が届かない苦しさ。申し訳なさ。情けなさ。もうこれ以上はどうしようもないっていうところまでやってきて、最後の最後に、絶対に頼りたくないんだけど、悔しすぎてめちゃくちゃ嫌なんだけど、でも心の奥底では頼りにしているから。だから。プライドを殺して。
お互いに絶対に負けたくない相手であると同時にお互いのことを最大級に認めていて相手のことが気になってしょうがない。僕はそんな由美子と千佳の関係性が本当に大好きでたまらなくて、だからこのシーンはもう尊さ極まれりという感じでもうなんか語彙力ゼロですみません……はぁほんと無理……。
大きな壁を打ち破った由美子がどんな風に高く飛んでいくのか、そしてもちろん千佳も負けじと羽ばたいていくと思うので、これからの二人の活躍がさらに楽しみになりました。続き待ってます。


森さんと大野さん、いい味出してたなあ。

『ボクは再生数、ボクは死』感想

ボクは再生数、ボクは死

ストーリー
しがない会社員の狩野忍は世界最大のVR空間サブライム・スフィアで世界最高の美少女シノちゃんとなった。VR世界で恋をした高級娼婦ツユソラに会うため、多額の金銭を必要とするシノは会社の先輩である斉木みやびと共に過激で残酷な動画配信を行うことで再生数と金を稼ぐことを画策する。炎上を繰り返すことで再生数を増やし、まとまった金銭を手にしたシノはツユソラとの距離を縮めていくのだが、彼女を取り巻く陰謀に巻き込まれていき――!?

リアルなVRVRはリアル
おッ、石川博品の新作ジャ~ン、でもVRモノか~あんま得意じゃないんだよなァ~でも石川博品だし読むかァ~って感じであんまり乗り気でもなく作家ブランドに釣られて読んだんですけど今はやっぱ石川博品ハンパねえなって気持ちでいっぱいですごめんなさい。マジ面白かったです。
いい年こいた青年が紙オムツ履いてゲーム世界で美少女になってオンラインで風俗通いして、お気にの嬢に会えなくなったから金を稼ぐためにストリーマーデビューして炎上上等の過激配信でバズってファンとオンパコするどっしょもない話なんだけどその全てが生き生きしてて、ああ世界を紡ぐってこういうことなんだって思う。
シノちゃんマジ世界最高の美少女なんで早く現実のネット世界に降臨してほしい。投げ銭の準備はできてる。


舞台は近未来のVR世界。主人公は人気モデラーが作った世界最高峰の美少女アバター・シノ(中身は28歳男性・会社員・独身)。
通い詰めていたオンライン風俗の嬢・ツユソラが引き抜きで高級娼婦になってしまったので彼女に会うためにリアルの上司に誘われて動画配信を始めるのだけれども鳴かず飛ばず、思い切ってネット上のアングラな街に乗り込んだらアウトローに襲われかけて結果それが大バズリ、味をしめて有名配信者を(ネット上で)殺害する過激配信に乗り出していくというストーリー。
もちろんネット上のアバターだから実際に殺し合ってるわけじゃないんだけど、消えたアバターは復活できないという仕様もあって結構殺伐としている。何より神は細部に宿るっていうけどちょっとした描写がこのVR世界の現実味を形づくっていて、ここで彼ら彼女らは実際に生きてるんだなって思わせるからなおさら緊張感がある。
かと思えば淡白なようでユーモアに富んだ会話劇、スパチャ祭りやコメント芸、アバターネーム大喜利などの配信あるあるなんかも盛り込んで、ニヤッとする笑いが随所に散りばめられていてもはや面白いがごった煮だった。ヴァルハラは麦。


とにかく主人公は風俗と金のために狂ったことを平気でやるやべー奴なんだが、惚れた女のために全部賭けるっていうポリシーは一貫していてそこは好感がもてるし、中身が男ってわかってても笑顔で死地に身を投げ出していく危険な美少女ってカタチにやられてなんだか好きになってしまう。これがリアルの配信ならバ美肉ってジャンルもあるしビジュアルやボイチェンされた声でファンになるのもまあ自然かなって思うんだけれど文章でそれをやってのけるのがすごい。
バズるたびに増えていく仲間と敵対者、そしてオンパコフレンズ。金、暴力、SEX。この中で真の意味で現実なのはスパチャで飛び交う金だけだけど彼らにとってはたぶん現実かどうかなんて関係なくて、VR世界のそこにあるかどうかってだけで、だから見てるこっちもこんなに胸が熱くなる。
楽しかった。僕は普段FPSなんて全くやらないけどシノがいるなら守り隊に入ってもいいかなって思った。でも本当の推しはキャッシュマネーとツシマ。


イラストはクレタさん。スタイリッシュとKAWAIIのマリアージュ
三人娘のバランスの取れたデザイン感。


イツキのことはママと呼びたい。

『え、みんな古代魔法使えないの!!??? ~魔力ゼロと判定された没落貴族、最強魔法で学園生活を無双する~』感想

え、みんな古代魔法使えないの!!??? ~魔力ゼロと判定された没落貴族、最強魔法で学園生活を無双する~ (ファミ通文庫)

ストーリー
没落貴族の息子レントは幼いころから本を読むのが好きだった。先祖である伝説の大魔法使いが残したその本には魔法にまつわるあらゆることが記されていて、彼はあらゆる魔法を使いこなせるようになった――つもりだった。ある時、レントは王都にある魔法学園の能力検定を受けるも結果は「魔力ゼロ」!? 落ちこぼれ学級のCクラスへ編成させられてしまう。しかしレントの使う古代魔法は現在の基準では測れないだけだと知り、さらにクラスメイトたちも才能が秘められていて――。クラスの仲間みんなでAクラスへ駆け上がれ!? マジカルサクセスストーリー!

伝説的魔法使いの末裔の少年が古代魔法を習得して魔法学園に入ってみたら魔力測定で魔力ゼロ扱いされちゃって……? というところから始まる逆転劇×魔法学園ストーリー。
ベタと言ってしまえばそれまでだけれど、テンポの良さやリーダビリティの高さで読ませてくるのはさすがベテラン作家という感じ。
一方、主人公の「魔力ゼロ」扱いがあっさり解消されてしまいそうなので今後どうするのかが気になります。


田舎貴族の息子ながら800年前の伝説の魔法使いの血を引く少年レント。ところがいざ魔法学園に入学してみたら魔力測定器がレントの魔力を検出できず、あてがわれたのは最下位のCクラスだった!
このCクラスに在籍するのはレントを含めてたった4人。初めこそバラバラだったこの4人が、お互いへの理解を深めながら協力して上のクラスを脅かす存在になっていくというストーリー。
ただ、肝心のCクラスの面々のキャラが、まだあんまり魅力的に見えないかなあ。もちろん1巻なので掘り下げに限界があるというのも分かるんですけど。
でも分かりやすい噛ませ犬キャラで1巻におけるライバルポジのシフルなんかは、初登場時との落差もあってむしろサラやムーノよりも良さが出ていたと思うんですよね。もちろんライバル役が魅力的なのはいいことなんですが。


理不尽な理由でCクラスに落とされたサラはともかく、ポテンシャルを秘めながらもそれを発揮できずにいたディーネやムーノが、自分の長所を発見してそれを伸ばしていく展開は良かったですね。やっぱりキャラクターが成長していくさまを見るのが学園ものの楽しみの一つだと思うので。
それで行くと、やっぱりサラのキャラ立ちの弱さが気になる。なまじ元々強力な魔法使いであるだけに、メインヒロインのはずなのにどうも影が薄いような……。もちろん、ラストの啖呵はなかなかカッコよかったですけど、でもあれはそれ以上に国王がアホすぎない……?
ビジュアルや性格など、結構好みのヒロインのタイプなので、もう少しサラにも活躍の場面や、逆に可愛らしい場面が出てきてくれると嬉しいです。
あとはレントの扱いかな。案外さくっとレントの力が披露されてしまったし、これからどういう部分で盛り上がりを作っていくのか期待です。


イラストは成瀬ちさとさん。コミカルなデフォルメが要所で効いてていいですね。
ライトソードのイラストはアングルが決まっていて格好良かったです。


ミヅハちゃんがわりと推しかもしれない。