まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『少女願うに、この世界は壊すべき ~桃源郷崩落~』感想

少女願うに、この世界は壊すべき ~桃源郷崩落~ (電撃文庫)

ストーリー
こんな世界はぶっ壊してやる――妖狐の因子を持つ少女・熾天寺かがりは、村を襲う妖魔や心ない人間たちから迫害され、この世界の全てを忌み嫌っていた。そんな彼女の願いに応じ、はるか昔に自らを封印した最強の聖仙・神津彩紀が覚醒する。五彩の覇者と呼ばれ、全能の薬神でもある彼の姿は――全 裸 だ っ た 。「間一髪だったな」流れるように神州刀を振り回し、敵を殲滅した彩紀は告げる。「どうやら俺はお前の式神、平たく云えば奴隷になってしまったようだ。お前の願いはなんだ――」最強のエロ聖仙と灼熱の狐耳少女による、世界変革の物語が始まった。――人の祈りは、天の法則を書き換える。第26回電撃小説大賞《銀賞》受賞作!

第26回電撃小説大賞〈銀賞〉受賞作品。周囲から迫害された狐耳の少女が千年の時を超えて復活した仙人の青年と出逢い、理不尽に満ちた世界を壊すために戦うファンタジー活劇!
面白かった! 伝承の力が科学文明を滅ぼした遠未来の日本、空に浮遊する島を舞台に、妖狐や仙人や天颶(天狗)や七福神が跳梁跋扈する和×中華×SFな中二感満載の世界観がたまらなく好みでした。
虐げられてきたヒロインが何度も諦めそうになりながらも何度でも立ち上がり、前を見据えて叫び戦う姿に、心が燃え上がる熱さを感じました。


作者のあとがきにもある通りジャンルのごった煮といった印象の本作ですが、中核にあるのは仙人や妖怪たちの幻想バトル。
古代中国や日本古来の伝承、伝説、まじない、呪いなどなど、ロマン溢れる単語の洪水でワクワクしてきちゃう。最大の敵が七福神ってのもサイコーに燃える。かと思えば東京タワーが過去の遺物として「血颪千重塔」なる物騒な名前で登場してきたりするもんだからもうたまりませんわ!
なんでもありなようでいてきちんと作り込まれている物語世界の構築ぶりは見事という他ありません。


ヒロインのかがりは狐の耳と尻尾を持って生まれたために人々から厭われ蔑まれてきた少女。そんな彼女の願いを聞き入れて現れた、炎帝神農の因子を持つ千年前の最強の仙人・彩紀。両者の出逢いから、この物語は始まります。
彩紀の力を借りて天颶を討伐するけれど、未だ村人たちからは認められず、さらなる迫害を受けてしまうかがり。
この村人たちの所業にははっきり言って腸が煮えくり返りそうになりましたが、一方で初めて自分と向き合ってくれた彩紀や唯一の肉親である妹巫女・かなめとの交流は心温まるもので、特に彩紀に少しずつ胸襟を開いていくかがりの不器用な愛情は微笑ましさ満点でした。
変態エロ仙人ではあるものの、誠実にかがりに接する彩紀に心惹かれてゆくかがりの可愛らしさったらない! 普段強気で当たりの強い女の子だからこそ小動物的なデレの破壊力が半端なくて参りました。これは全世界の仙人が好きになっちゃうわ……。
しかしそんなラブコメな日常も長くは続かず、天は少女をさらなる絶望に追い落とす。どこまでやれば気が済むんだという悲しみと怒りの連続の中、その怒りと、世界をぶち壊すという激情を胸に二本の足で立つかがりの姿には魂が震えました。
思いの力が世界を変える。かがりと彩紀、この主従の願いは世界を変えるか。続刊でもぜひこのテンションを保ったまま走り続けてほしいですね。


イラストはろるあさん。スタイリッシュ&クールな絵柄で素敵。特にカラーの炎刀一閃が格好良かった!
あと彩紀の全裸に遠慮がなくてよかったです(笑)。


正直惟依の同人誌が出るなら読みたい(欲望に忠実)。

『スパイ教室02 《愛娘》のグレーテ』感想

スパイ教室02 《愛娘》のグレーテ (ファンタジア文庫)

ストーリー
不可能任務を見事達成させた新生スパイチーム『灯』。次のミッションは冷酷無惨のスパイ殺し『屍』の排除。より過酷な任務に、クラウスは最強のメンバーを選別する。しかし、「あぁ。残念ながら、今回の任務には八人全員を連れていけない」選ばれたのは実力に不安の残る四人の少女。「現時点における――『灯』最強の四人で暗殺者に挑もう」そう告げるクラウスの真意は――? またメンバーの一人は、そんなクラウスに抱く恋慕が暴走していき――。クラウスが仕込んだ「嘘」が明かされる時、少女たちの真価が試される!

1巻は大変な面白さながら一度きりの飛び道具みたいな構成でもあったので、続巻はどうなるかなーと思っていたのですが嬉しいことにまったくの杞憂! 今回も見事な嘘とキレキレの伏線回収劇で素晴らしかったです!
今回は四人の少女での別行動ということもあり、前巻であまり目立っていなかったキャラクターの活躍もたっぷり描かれました。
特に副題にもなっているグレーテの有能さったらなかったですね! この調子で一人ずつ描かれていくのだとしたら、これからが楽しみで仕方ありません。


今度の任務は共和国に潜む暗殺者の殺害。しかし八人の少女たちは未だ発展途上。彼女たちの命を危ぶんだクラウスの決断は、八人の内から四人を選抜して任務に同行させること。そして選ばれたのは、なぜか八人の中でも特に実力が不足していると思われる四人だった!
その実力不足の四人の中にしっかりリリィが含まれてしまっているのには苦笑い。リーダーなのに……。でも普段のドジっ子ぶりといざという時の有能さのギャップが彼女の魅力なので仕方ないね。なんだかんだでやっぱり一番活躍してほしいのは彼女だったりもするので出番が多いのは嬉しいです。
残りの三人は、窃盗のプロのジビア、動物使いのサラ、変装の達人のグレーテ。彼女たちは前巻では名前が出るのすらだいぶ後になってからだったので、初めてしっかりとキャラクターが描かれたように思います。
猪突猛進なジビア、気弱なサラ、クラウスへ偏執的な愛を捧げるグレーテ……ポンコツリリィを加えて凸凹四人衆といった具合ですが、決めるところで格好良く決めてくれるのは皆同じ。メンバー同士でのちょっとしたやりとりや励ましあいも微笑ましくて、知れば知るほど愛おしくなってくる子ばかりで全員を応援したくなってしまいますね。


迫りくる襲撃者の影。そして明かされる真実。あーなるほど、今度はそう来たかあ!
いやー綺麗に騙されました。思い返せばそこかしこに違和感がありましたが、それがこう繋がってくるとはね……。前巻に負けない嘘の扱い方に天晴の一言ですわ。こんだけの驚きを毎回提供してくれるつもりなんですか? ハードル爆上がりしちゃってますけど?
そしてグレーテさん! あんたとんでもない才女だよ! 灯はピーキーな才能の持ち主ばかりだと思ってましたけど、どえらい有能スパイが紛れ込んでいたもんだよ! 愛する男のためにその負担を肩代わりしてみせる《愛娘》さん、ちょっと本気で凄かったです。格好良かったー!
リリィとジビアもそれぞれの長所を活かした味のある戦いぶりを見せてくれたし、サラは後方支援組だったのでさほど目立ちはしなかったものの、実は影のMVPという感じでしたね。
エピローグでは気になる次回予告が。おそらく今回描かれなかった4人の活躍が見られることと思います。めっちゃ楽しみ。


ナイスガーターベルト!(挨拶)

『スパイ教室01 《花園》のリリィ』感想

スパイ教室01 《花園》のリリィ (ファンタジア文庫)

ストーリー
陽炎パレス・共同生活のルール。一つ、七人で協力して生活すること。一つ、外出時は本気で遊ぶこと。一つ、あらゆる手段でもって僕を倒すこと。――各国がスパイによる“影の戦争“を繰り広げる世界。任務成功率100%、しかし性格に難ありの凄腕スパイ・クラウスは、死亡率九割を超える“不可能任務”に挑む機関―灯―を創設する。しかし、選出されたメンバーは実践経験のない7人の少女たち。毒殺、トラップ、色仕掛け――任務達成のため、少女たちに残された唯一の手段は、クラウスに騙しあいで打ち勝つことだった!? 一対七のスパイ心理戦! 第32回ファンタジア大賞《大賞》作の痛快スパイファンタジー

そして少女スパイは花開く
第32回ファンタジア大賞〈大賞〉受賞作品。スパイによる「影の戦争」が繰り広げられる世界で、養成学校の落ちこぼればかりを集めた少女スパイチームの成長と挑戦を描くスパイアクション。
楽しかったー! 中二ロマンに満ちた設定の数々、メリハリのあるストーリー展開、魅力的なキャラクター陣、トリッキーな伏線回収と、実に大賞作らしい読み応えのある1冊でした。
最強スパイの教官と戦いながら少しずつ才能を開花させてゆく少女たちの姿から目が離せません。


スパイ養成学校の落ちこぼれ・リリィが突然言い渡されたのは、一流スパイでも死亡率九割超えの「不可能任務」へ挑むスパイチームへの編入。しかし集まったのは全員が落ちこぼれの少女七人。そしてその教官は、指導能力が欠如したスパイだった!
凄腕のスパイなんだけれど教官としてはまるでダメな先生・クラウスがリリィたちを育てるために取った方法は、七人で自分を襲撃させること。
なにかとポンコツなリリィを筆頭に、それぞれピーキーな能力を持ちながらもスパイとしては三流なメンバーたちが、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら四六時中クラウスに挑んでは敗れ去る。その中で少しずつ絆を深めあっていく日常風景は、殺伐としているようで微笑ましくて良かったです。


しかし当然ながら、微笑ましいだけではいけません。1ヶ月後には不可能任務が待ち受けているのだから。
任務達成のポイントは、なんといっても七人が持っている能力にあります。落ちこぼれではあるけれども、得意分野に限っては彼女たちは凄いものを隠し持っていたのでした。
普段はへらへらしているリリィが最初に彼女の本気を見せた瞬間なんか、ちょっと鳥肌が立ってしまいましたね。ケレン味たっぷりで、魅せ方が素晴らしい。
そんな彼女たちが命を懸けて挑む任務。舞台は敵国中枢。別行動のクラウス。七人の前に立ちはだかる最強の敵。そして明かされるトリック。
いやはや、見事の一言。まあ、カラーイラストがあるので、たぶん気づくことはできるんですけど、それにしても大胆かつ綺麗な構成ですよこれは。
全てを投じた乾坤一擲の策が導いた成果はほんのちょっぴりで、でもその少しの差が勝利をもたらすという二段構えの伏線回収劇には、もはや拍手喝采です。
任務を達成したとはいえ、まだスパイとしては未熟な少女たち。彼女らの今後の戦いが楽しみでなりません。


イラストはトマリさん。可愛さとクールが同居した絵柄が作品によくマッチしていました。
特にお気に入りの一枚はやっぱり咲き狂ったリリィ!


なお推しはエルナちゃん。