まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

災厄戦線のオーバーロード

ストーリー
異次元から発生する怪物<グラフ>から日本を防衛するため設立された次元狭界管理機構。
その戦闘員の中でも桁違いの異能を持ち、17歳にして支部のトップに立つ笹宮銀は、自分の強すぎる能力に退屈していた。
そんなある日、銀は“物体を3センチだけ動かせる”というしょっぱい能力を持つ少女を発見し……。



第27回ファンタジア大賞<金賞>受賞作品。
自分の最強能力に不満を持つ主人公が、ヒロインのショボすぎる能力に目をつけて育て上げる指導系異能バトルアクション。
面白かったです! どうにも使いようがない風に見える能力を、研究と工夫と特訓で戦力に仕立て上げていく展開が熱いストーリーでした。
語り手が次々に入れ替わる文章はユニークで面白いですね。いきなり怪物サイドの語りから始まるとは……。


主人公の笹宮は、<七式>なる最強のグラフィティ(能力)を持ち、17歳でありながら4人しかいない特級イレイザーで、富山支部の室長を務める超凄腕。
なのに当の本人は、もっと弱い能力で努力して這い上がっていきたかった、という少年マンガ脳なんだから笑えます。組織のトップなのに全く偉ぶったところもなく、むしろ小学生男子みたいな無邪気さがあって微笑ましいくらい。
一方ヒロインの口原は、最優秀訓練生にまでなりながら手に入れたグラフィティが“物質を3センチ動かすだけ”という、不憫な境遇の女の子。立ち位置としては、むしろ彼女が主人公といえるかもしれません。彼女が語る場面も多いし。
自分のグラフィティがコンプレックスで、同期にも追い抜かれ、なかなか自信を持つことができずにいた彼女。そんな気弱すぎる口原が、特訓を続けるうち、だんだん前向きになっていく姿は胸を熱くしてくれました。
始めこそ笹宮のことを怪しがりつつも、特訓の日々の中で彼に心を開いていき、いつの間にか惹かれていく口原はとても可愛い! 教え導く主人公と、師匠に憧れるヒロインと、という構図が素敵ですね。


ふたりの他にも、魅力的なキャラクター陣が脇を固めています。口原のチームメイトにして友人の平上、飛鳥、朝森。強く嫌味なライバル役として登場する水瀬。
それぞれ固有のグラフィティを持つ彼女たちは、チームになることで戦い方が一気に多様に。やっぱりチーム戦って楽しいですよねえ。
口原がどうあがいても敵わない水瀬と、そんな水瀬でも全然追いつけない笹宮、というラインも、物語をひときわ面白くしてくれていたと思います。そう考えると、水瀬はかなりのキーキャラクターかも。
そしてラストバトルの相手は、一度は負けてしまったあの敵。ベタですがいいですね! テンション上がる!
何より、最後に見せてくれた笹宮の圧倒的な強さが爽快でした。それを見て諦めるのではなく、そこを目指そうと思えた口原の成長も素晴らしい。
まだまだひよっこな口原ですが、今後彼女がどんなステップアップを見せてくれるのか、楽しみで仕方ありません。


イラストはしらびさん。口絵のキャラ紹介イラストを見てめちゃくちゃワクワクしました。
一撃を見舞う笹宮室長が格好良すぎて惚れる。


雪子さんの密やかな恋に実りあれ。