まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

シュガーアップル・フェアリーテイル 銀砂糖師と緑の工房

  • ストーリー

王家が認めた砂糖菓子の作り手・銀砂糖師の称号を手に入れたアン。
彼女のために自らを売ったシャルを取り戻そうと、アンはペイジ工房へ乗り込む。
大派閥なのになぜか没落寸前のペイジ工房を立て直せたらシャルを返すと言われたアンは……。


遂に念願の銀砂糖師になったアンですが、いつも隣で見守ってくれていたシャルはよそのお嬢様のものに。
奪われた愛しい人の後を追いかける女の子とか、なんともぐっとくるシチュエーションではありませんか。
銀砂糖師になって最初の1年は、たくさん仕事をこなして地位を確立するために大切な時期。
それを知るシャルは、アンが自分を追って来ないように願います。
自分が我慢してアンが幸せになれればそれでいいんだ。そう思いながらも、心の奥ではアンが来ることを期待してしまうシャル。
それは今までの彼にはなかった感情で、シャルは戸惑ってしまうのだけれど、もちろん私たちはその感情の名前を知っています。
100年生きてからの初恋。そんなに長い時間、これだけの純朴さを保てるのは、やっぱり妖精の特権でしょうか。
一方のアンは、シャルが助けを求めていないだろうということを指摘されながら、それでも彼を追って旅立ちます。
シャルのためではなく、アン自身が彼と一緒にいたいから、シャルのせっかくの自己犠牲を無視してでも、迎えに行く。
自分では身勝手だと言っているけれど、このなりふりかまわず突き進む熱さが、アンらしくてとても素敵だと思います。


ペイジ工房で働くことになったアンは、銀砂糖師として他人の上に立って働くことに。
ばらばらの意見を持った職人たちをまとめ上げてひとつの作品を作るのは、ある意味、ひとりで作品を作るよりもずっと大変なことです。
でもそれだけに、それぞれが持つ個性を活かしきった作品が出来上がったとき、素晴らしい達成感を得ることができる。
力を合わせて何かを作るっていいものですよね。みんなで作る喜びを思い出させてくれたような気がします。
何より嬉しいのは、ここの工房の人たちがみんないい人だということ。
何度も辛い目に遭ってきたアンが、やっと安心できる居場所、アン言うところの「家」を見つけられた。
今までの苦しい旅をずっと見てきただけに、ほっとしてしまいます。良かったね。


もうひとり、裏のヒロインとも言うべきなのが、シャルの羽を手に入れたペイジ工房のお嬢様・ブリジットです。
シャルに本気で恋し、近くで命令することはできるのに、決して振り向かせることはできないという切なさ。
3巻ではなんて嫌な女なんだと思ったけれど、こうやって周りから追いつめられて、どんどん孤独になっていく彼女を見ていると、だんだん気の毒に思えてきます。
というかぶっちゃけ可愛いです。アンはまっすぐ正統派のヒロインですが、ブリジットのように影のあるヒロインもいいですよね。
きっと彼女もただ、恋の仕方を知らなかっただけなのでしょう。
シャルのことは譲れないけれど、彼女にも新しい、幸せな恋が訪れることを願わずにはいられません。


へたれでだめな奴だけど、いないとなるとなぜか寂しい。そんなジョナスに次こそは出番を。