まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

美少女とは、斬る事と見つけたり

ストーリー
かつて「事故」で両腕の機能を失った女子高生・春日透。
彼女は祖父の家に飾られている刀を口に咥え、夜な夜な人を斬って回ることを日課としていた。
彼女には、証拠を残さず人斬りを行うのに有効なある超能力が宿っていて……。



入間人間先生の新作。両腕を動かせない主人公の少女が、超能力を使って人を斬りまくるサスペンス異能バトル。
主人公・透を筆頭に、キャラクターたちがごくナチュラルに壊れていて、背筋を寒くしてくれました。
むしろ透以上に、過激すぎるシスコン少年・明の方が狂っているように見えてしまうのは何故なんでしょうね。


超能力者の存在が明らかになって、一般人から忌み嫌われ、迫害を受けている世界が舞台。
あくまで超能力は秘すべきものということで、パッと見には普通の学園もののようにも見えてきます。
透は、両腕の機能を失っているものの、特に大きな不自由なく日常生活を送っている普通の女子高生……に見せかけて、毎夜、口に咥えた刀で行きずりの人を斬って回る殺人鬼なのでした。
特に強い理由があるわけでもなく、強いて言えばそこに刀があって、やってもバレない超能力を持っていたから、殺してみた。
彼女にとっては殺すことがごくごく自然のことのようで、この自然さが逆に、人として何かが致命的に間違っていることを表しているようで、恐ろしく思えてきます。
そんな透は、祖父や友人たちなど、優しくしてくれる人々に囲まれてはいるものの、どこかやっぱり孤独な少女でした。時折淋しげな様子が垣間見えて、不思議と魅力的にも見えてしまいます。非道の快楽殺人者のはずなんですけどね。


透が持つ能力は“傷つけたものを透明にする”というもの。殺した人間は全て見えなくなる。返り血をまぶした布は透明マントになる。
彼女のような殺人者にはまさに打ってつけといっていい能力ですが、初めて殺しに失敗した結果、彼女を恨む透明人間がひとり生まれてしまいました。それが、実の姉を崇拝してやまないシスコン少年・明です。
彼も表向きは明るい生徒会長なのですが、心の中では姉以外の人間なんてどうでもいいと思っている変人。姉・陽と合わせて、今後のキーマンとなってくるのは間違いありません。
それから、もちろん透以外の超能力者も登場します。今回は透と同じく女子高生であり、同じく殺人を厭わない少女・葉子との戦いが描かれました。
とはいってもいわゆる「異能バトル」のような派手なものではなく、限られた自分の能力を使って如何に相手を傷つけるかという、見ていて非常に痛々しい争いでしたが……。
これからもこういった戦いが続きそうだけれど、透の犯行をどこかで止める者が現れるのか、それとも透が勝ち続けてしまうのか。どちらがハッピーエンドなのか。全く見えない物語の結末が、気になって仕方ありません。


イラストは珈琲貴族さん。名は体を表すといいますか、透明感のある透の美少女っぷりが映えるイラストでした。
カバー折返しコメントを読んでから表紙を見ると、ちょっと怖くなってきますね……。


透明人間も苦労が多そうだ。