まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

犬とハサミは使いよう

犬とハサミは使いよう (ファミ通文庫)

犬とハサミは使いよう (ファミ通文庫)

ストーリー
読書バカの高校生・春海和人は、ある日突然、強盗に撃たれて命を落としてしまう。
しかし和人は、本が読みたいという執念で、なぜかダックスフントの姿で奇跡の生還を果たす。
本が読めずに悶える彼の前に現れたのは、全身黒ずくめでハサミを振り回す謎の女だった……。



第12回えんため大賞<優秀賞>受賞作品。ずっと読みたいと思いつつ手を出せずにいたのですが、アニメの放送をきっかけにようやく読むことができました。
公式のあらすじによればジャンルは「ミステリ系不条理コメディ」。ううん的確。主に「不条理」のあたりが。
とりあえず、主人公が犬というのはなかなかに新鮮でした(元は人間だけど)。地の文は一人称で、つまりは犬視点で進むのですが、なんというか独特の読み口の文章でしたね。最初は戸惑いましたけど、慣れてくると妙に読みやすく、ちょっとずれたようなギャグも楽しく感じられてくるから面白い。
あとお話のテンポがとても良かったです。軽妙な会話劇はもちろんですが、霧ペディアの単語紹介が上手いですね。単語紹介を挟んでばんばん場面が移り変わっていくのでどんどん読まされました。


最大の魅力は個性的な主人公像。まあ犬ですから、その時点で相当ユニークですけども、それ以上に彼の「読書バカ」「本バカ」っぷりが凄い。なんせ本のために生き返っちゃうくらいですから。大したもんです。もう宗教を始められるレベル。
最初から最後まで、本に対する愛情の描き方が本当に徹底していました。あとがきで本人も言っていましたが、作者もよほどの本好きなのだろうと伺えます。
私も、ここまでではないにしても本は大好きですから、和人に強く同意したくなったことも一度や二度ではないし(ツッコミたくなったことも一度や二度ではないけれど)、これだけ本の描写が多いとやっぱり知らずテンションが上がります。ああ、いいよね、本っていいよね。
一方、ヒロインの霧姫さんはサディスティックでハサミ女なクールビューティーで、超売れっ子の大作家。格好いい系のヒロインですね。危険な女も悪くない。
色々と言動がぶっ飛んでるので本音がなかなか分かりにくい彼女ですが、そのミステリアスさもまた魅力と言えましょう。
それにしても相手が作家だと分かった瞬間に次巻の催促をしてみせる和人さんはさすがという他ない。これはちょっと真似できない。


前半わりとコメディ押しだったので油断していたら、後半になって急にサスペンスじみてきて一気に引き込まれました。でもバトルはシュールなギャグでした。おう、どういうスタンスで読めばいいのか分からない!
事件は解決したと思わせてからのもうひと悶着が良かったですね。こういうどんでん返し好きなんです。ミステリーっぽい。
一貫していたのは本への愛です。本が持っている力とか、本の可能性とか、到底ありえないようなものからちょっと信じそうになっちゃうようなものまで、思いっきり詰め込まれていました。読んだ後にまた本が読みたくなる素敵な作品ですね。


イラストは鍋島テツヒロさん。この作品はかなり特殊なイラストの入れ方をしていて、イラストは全部見開きになっているんですが、スタイリッシュな絵柄が作品の雰囲気に大変よくマッチしていたように思います。
カラーがまた素晴らしいですね。白と黒をガツンと使った口絵に目が引かれました。


で、『大罪シリーズ』はどうやったら読めますか?