まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

時の悪魔と三つの物語

時の悪魔と三つの物語 (HJ文庫)

時の悪魔と三つの物語 (HJ文庫)

ストーリー
有名な物書きのラキは、幼なじみのイルクと結婚の約束を交わし、南の大陸へと旅に出た。
新天地でも成功を収め、約束の三年を少し過ぎて、故郷エルトアへと戻るラキ。
ところが村に戻ったラキは、悲しい現実を目の当たりにする……。



第7回HJ文庫大賞<大賞>受賞作品。使うと時を駆けることができるという「時の砂」と、それを提供する「時の悪魔」をめぐるお話です。
タイトルの通り3つの物語が連作形式で収録されていて、それぞれ主人公とヒロインも別々なのですが、全部読み終わってみるとひとつの物語としてまとまっているように思えるから不思議です。舞台はひとつの世界なので、同じ登場人物が別のお話に出てきたりといった楽しみもありました。
「時の砂」の設定がいいですね。時を遡れるというのはただ便利のように思えるけれど、砂を使った人物がいた世界はその人がいなくなったまま続いていくから、自分はよくても他の人を悲しませることになる、という点がとても重要。物語全体に流れている胸をちくりと刺すような切なさの大本は、ここにあるような気がします。


第一章は、3年後の結婚を約束して旅に出た物書きの青年・ラキと、その幼なじみの少女・イルクのお話。
3つの物語の中でいちばんもの悲しさが残るストーリーでした。ラキが出発した時点で、なんとなく嫌な予感はしていたのですけれども。
自分が過去の愛する人と一緒になって幸せを得るのか、愛する人を過去の自分の下へ送って幸せになってもらうのかという2択から片方だけを選ぶことができるとしたら。どちらが正しいとかではなく、少し形が違うだけで、根底にあるものは同じ愛なのかもしれませんが。
第二章は、旅籠屋の経営を始める青年・アルと、その旅籠屋に忍び込んでいた謎の少女・ロニカのお話。
3つの物語の中では比較的明るめ。元気いっぱいのロニカのおかげでしょうか。ヒロインの中ではいちばん好きです。
第一章にも登場したミシェル姫の急成長ぶりには驚きました。主人公やヒロインにはなっていませんが、彼女も実に魅力的なキャラだと思います。
第三章は、「時の悪魔」と同じ名を持つ女性・トキと、その夫・スクルージのお話。
「時の悪魔」の秘密が明かされる最終章です。第一章の主人公のラキとイルクも登場し、物語上で大きな役割を果たしました。それぞれのお話が単独であるのではなくて、裏でしっかりとつながっている感じがしていいなと思います。
第二章や第三章での「時の砂」の効果はなんとも微妙なところで、深く考え始めると色々厄介なことになりそうですが、そういうものなんだと素直に受け入れてしまった方が楽しめるのではないでしょうか。SFではなくファンタジーですから。
さりげなく、それでいて一気に伏線を回収していったエピローグが素晴らしかったです。3つの物語がひとつの物語になった瞬間でした。最後の見開きイラストを見ているとじんわりくるものがありますね。
物語は綺麗に終わっているので、続きがあるのかどうかは分かりませんが、もし続くようならまた喜んで手に取りたいと思います。


イラストはかぼちゃさん。インパクトのある表紙がとても素敵。
口絵の胸がこぼれ落ちそうなミシェルか、第一章のロリミシェルか。どちらも捨てがたい。


作中に出てくる小説を読む方法はないものか……。