まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

泳ぎません。

泳ぎません。 (MF文庫J)

泳ぎません。 (MF文庫J)

ストーリー
綾崎八重は今日も学校のプールにビニールボートを浮かべ、ボンヤリ物思いにふけっていた。
茂依子と榛名日唯を合わせて、たった3人だけの水泳部の休憩時間。
放課後のプールでは、今日も女の子たちの怠惰なトークが繰り広げられる……。



プール、スク水、女の子。三拍子揃った完璧な空間、水泳部のお話。
水泳部といっても、バリバリ練習して大会に出場して、なんて熱血スポ根じゃなくて、物語の中で描かれるのは、練習の合間の休憩時間の風景です。
休憩時間を満喫したい高校生だから、タイトルの通り泳ぎません。とにかくとことん泳ぎません。
ボートで浮いたり水の中を歩いたり、水の上を走ったり(!)していても、かたくななまでに泳ぎません。


実は一度100ページくらいまで読んだのですが、どうもしっくりこない部分があって、しばらくそのまま放り出してしまっていました。
自分でもどうしてそうなったのか、今となってはよく分からないのですけれども、多分文章に独特のくせがあるからなのではないかと。
この作品は、大きく分類すればいわゆる日常ものってやつに当てはまるんだと思のですが、それに合わせて、まったり何も考えずに読んでいると、ところどころで妙な引っ掛かりを感じるんです。
具体的にどこと聞かれると困ってしまうのですが、八重の一人称で語られる地の文に、実は結構くせがあるような気がします。
慣れてくるうちに、そんな文章も好きになってきたんですけどね。こんな風に感じたのは私だけでしょうか?
至極勝手なことを言わせてもらえば、「ああ比嘉先生だなあ」と思いました。前々作でも同じようなことを感じた覚えがありますから。


主人公の八重は、男嫌いでやる気がなくてツッコミ気質の女の子。
基本いつもぐでっとしながら、たわいもないことを淡々と考えているのですが、時折その思考の中にきらっと光るものがあって面白い。
“二十三番目に綺麗だと思うモノ”とか、“「ヘル」じゃなくて「地獄」”とか、ユニークなセンスがありますね。天才肌ってやつですか。
ただ、可愛げはありません。男については特にそうですが、プールの外のものはくだらないと思っているようなフシさえあります。
でも、そんなぐうたらで、好き嫌いが激しくて、自分のいるところが全て! みたいなところは、とある平凡な高校生らしい考え方なのかなあとも思いますね。


3人のやりとりは、どうでもいいときは本当にどうでもいいのだけれど、勢いに乗っているときはそれ相応の楽しさがあって、まさに「雑談」といった具合。
プールの中から見えるものでしりとりをやったりとか、相手の外見を100個褒めるとか、何か企画があるときは特に楽しいですね。
3人だけでもわいわいと騒がしくかしましく、高校のときの放課後ってこんなだったかもなあ、と少しノスタルジーに浸ってみたり。
八重の身体の、ある特定の部位の大きさに関するあれこれには、申し訳ないけれど笑いました。天然でぐさっと突き刺さるような台詞を吐いてくる日唯ちゃんがいい。怒るでもなく、冷静にツッコミを入れる八重の背中に一抹の寂しい風を幻視。


神くんの登場で、八重の考え方もちょっとずつ変わってきたような、そうでもないような。
次も変わらず、のんびりした会話が繰り広げられるんだろうけれど、そんな中にも、何か変化していくものがあるのかもしれません。
同じような毎日でも、振り返ってみればいつの間にか、なんていうのは、まさにリアルな日常だと思いますがどうでしょうか。


イラストははましま薫夫さん。いいスク水でした。ごちそうさまです。
プールにドボン! のイラスト、まさか3回も使ってくるとは……。


野球部の掛け声がそうとしか聞こえなくなってしまって困るんですが。