まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

半熟作家と“文学少女”な編集者

  • ストーリー

わがままで自分本位な売れっ子高校生作家・雀宮快斗。
新しく快斗の担当になったのは、本が大好きで清楚な美人編集者、天野遠子だった。
ほんわか笑顔で容赦なく原稿修正を指示してくる彼女に、なぜか快斗は逆らえなくて……。


長く続いた“文学少女”シリーズも、遂に最終巻を迎えました。
本編終了後のいわば外伝的な話だし、主人公も心葉ではないけれど、シリーズの総まとめとして、今までの出来事の結末がぎゅっと詰め込まれていて、ここまで読み続けてきた読者にとってとても美味しい物語でした。


遠子が担当する作家の快斗は、自分の書いた小説が常に一番面白いと考えているような、「いやなやつ」タイプの主人公です。
読者からのファンレターは読まずに捨てようとするし、ネットに書きこまれた悪口に切れてパソコンを壊そうとするしで、まったくひどい俺様っぷり。
中学生で賞をとってデビューして、年収が億を越えているというんだから、プライドが高くなるのも仕方ないのかもしれませんが。
そんな快斗だけれど、遠子と出逢って、身の回りで起こる騒動の中で少しずつ自らを見直して、人間としても作家としても成長していきます。
もっとも彼は、元々本当にいやなやつっていうわけじゃなくて、まっすぐにぶつかってくる相手がいれば、きちんと話を聞くことができるんですよね。ちょっと性格がねじれちゃって素直になれていないだけで。
いかにも自己中心的な語り口で書かれているのに別にイライラさせられないし、子どもっぽいかんしゃくは憎めないし、どこか可愛らしささえ感じられるのは、根っこにある優しさとか思いやりが透けて見えているからなのかもしれません。


もうひとりの主人公は遠子先輩。うん、やっぱり先輩を付けたほうがしっくりくるなあ。
で、その遠子先輩ですが。いつの間にこんなにいい女になっていたんでしょうか。
学生時代よりずっと落ち着いた雰囲気があって、ふんわり包んでくれるようで、凄く色っぽく見えました。
ずっと年下の快斗目線で描かれていたからなのかなあ。心葉から見ればまた違うのかもしれませんね。
もちろん、のほほんとした性格とかグルメ批評とかは全然変わっていないし、微妙に恋心に疎いところもあの頃のままなんですけど、全てが魅力的に映ってしまう不思議。
やっぱりこの天野遠子という人は、どこもかしこも素敵で、やわらかで、誰からも愛されるようなキャラなんだなあと、しみじみ感じました。


遠子と近くで接して、気持ちを通じ合わせる中で、快斗は次第に、彼女に心惹かれてゆきます。
でも遠子には、私たちがよく知るとおり、既に大切な人がいて。
その指に光るものや、本人が楽しげに話すお相手の話に、いちいちやきもきして胸を痛める快斗。
いっそ想いを伝えようとするけれど、どうしても伝えられない。そんなほろ苦くて甘酸っぱい恋がとても愛おしい。
本当にこの作品は、うまくいかない恋にざわつく心を描くのが上手いと思います。
べたべた甘甘な恋愛も素晴らしいけれど、失恋はやっぱり激しくて美しい。ああ、思春期。


過去の人物で主に活躍するのは遠子先輩くらいですが、小さな部分で、にやにやさせられる要素がたくさん散りばめられていました。
たとえば井上ミウの凄さだったり。遠子先輩の上司である編集長があの人だったり。
そして心の底からゾクゾクさせられたのは、最後の最後でした。まさか、あなたがここで出てくるなんて!
シリーズ中でもほぼ一番好きなキャラがラストで登場してくれたことに、もうもう感激しきり。身が震える。嬉しいなあ。


さて、これで、本当に“文学少女”という作品が終わりを告げることになりました。
最初から最後まで、どこまでもきらきらと光って、本当に色々なものを残していってくれた、最高の物語でした。
お別れは淋しいけれど、この作品はいつまでも、私を含む読者の胸の中に生き続けていくことだろうと思います。
この作品に出逢うことができて本当に幸せでした。野村美月先生と竹岡美穂さんに、心からの感謝を。ありがとうございました。


さあ、また初めから読み返そうか。