まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『友達の妹が俺にだけウザい』感想

友達の妹が俺にだけウザい (GA文庫)

ストーリー
馴れ合い無用、彼女不要、友達は真に価値ある1人だけ。青春の一切を「非効率」と切って捨てる俺・大星明照の部屋に入り浸るやつがいる。妹でも友達でもない。ウザさ極まる面倒な後輩。親友の妹、小日向彩羽。
「セーンパイ、デートしよーーっ!……とか言われると思いましたー?」
血管にエナジードリンクが流れてそうなコイツは、ベッドを占拠したり、寸止め色仕掛けをしてきたりと、やたらと俺にウザ絡みしてきやがる。なのに、どいつもこいつも羨ましそうに見てくるのはどういうワケだ? と思ったら彩羽のやつ、外では明るく清楚な優等生として大人気らしい。おいおい……だったら、どうしてお前は俺にだけウザいんだよ。

「友達の妹」と「ウザヒロイン」というパワーカード2枚を贅沢に使ったオタク1本釣りみたいな学園ラブコメディ。こんなん読むしかないでしょ!
……と喜び勇んで読んだのですが、うーん。読む前のハードルが高くなりすぎたせいか、ビミョーに期待していた方向性とは違ったかなあ。
ヒロインはちゃんと可愛いんですけどね。主人公がちょっとね。主人公のことが好きになれるかどうかって、ラブコメでは結構大事なんですよねえ。


ヒロイン・彩羽のウザ絡みがかわいい。結局何が読みたいかってこれなんですよこれ。友達の妹(美少女)が自分の部屋に入り浸っては「センパイ(はぁと)」とか言っておちょくってくるの最高じゃない? 最高だよね?
友達の妹っていう立ち位置。これがいい。友達でもなく赤の他人でもなく、近いようでいてどこか遠いような……ちょっと禁断の関係っぽいイメージもあるし、なんとも言えない良さがあるんですわ。
これだけはっきり好意を向けられていてそれに全く気付かないどころか「意地悪してくるんだから嫌われてる」と思い込む主人公は本当にどうかしてる。誰がどう見ても嫌ってる人間に対する絡み方じゃないだろうがよぉ……何を見てるんだお前はよぉ……。
まあ本音を言えば、もっと振り切ったウザっぷりを期待してた部分はあります。だって全然ウザくないんだもの。主人公が勝手にウザいと思ってるだけで。タイトルにするくらいなんだから、もっともっと主人公のことを振り回してほしかったかなあ。


学校では平凡で影の薄い存在だという主人公だけれど、そんな彼にはゲームアプリ制作チーム「5階同盟」のリーダーという裏の顔が。
ほんと個人的な感情で申し訳ないんですけど、あー、ゲーム作っていくタイプのラブコメかあ……とここで少々意欲低下が……。いや、ゲーム制作ラブコメってなぜだかわりと見かけるんですけど、ぶっちゃけ全然興味がないんですわ。ラブコメの主軸はちゃんとラブコメであってほしい派だし。今のところクリエイター的な部分がメインではなさそうなのでいいんですけど。
表向きは冷徹な女王様にして裏では主人公に頭が上がらない変態美人教師とか、ゲームのキャラの声を全て当てている謎の声優とか、チームのそれぞれのキャラクターは立っているので、そっちの方面での面白みはあるかなと思います。
そんなメンバーの中に飛び込んできた主人公の従姉妹にして幼馴染みの真白。初めは主人公を避けていながらも色々あってみんなと打ち解けた彼女の参入が、彼らの輪にどんな波紋を呼び起こすのか……。ラブコメ的な嵐の予感がするぜ。


こんなに目立ちそうな言動ばかりしてる主人公の影が薄いっていうことだけが、どうしても理解できない。

『七つの魔剣が支配するIII』感想

七つの魔剣が支配するIII (電撃文庫)

ストーリー
オフィーリアが魔に呑まれ、ピートがその使い魔に攫われた。キンバリーの地下迷宮に消えた生徒数の多さに、学園内は厳戒態勢が敷かれる。学生統括のゴッドフレイをはじめ、上級生らが奪還に向かうも救出活動は難航していた。迷宮の深みに潜む魔女を相手に、自分たちに何が出来るのか? 苦悩するオリバーらに、ある人物が取引を持ちかける。それは彼らにとっての光明か、それとも破滅への誘惑か。目指す場所は地下迷宮の更にその奥。想像を超えた環境と罠、恐るべき合成獣たちが行く手を阻む。果たして彼らはサルヴァドーリの工房にたどり付き、友人を取り返すことが出来るのか――。

魔に呑まれたオフィーリアによって連れ去られたピートを救うため、ミリガンとともに迷宮探索へ!
一寸先は闇、死と隣り合わせの魔の迷宮へ、友人のために潜り込んでゆく。これぞ王道の冒険譚というもの!
敵役となってしまったオフィーリアがどのようにして魔に落ちていったのかという顛末は、孤独で悲しく救いのない、しかし最後だけは美しい……胸に残る物語でした。


頼りの先輩ミリガンとともに迷宮に潜ることになった選抜メンバーは、ナナオ、オリバー、シェラ。
第三層の奥に存在するというオフィーリアの工房を目指し、ミリガンの指導を受けながら一歩一歩闇の世界へ。様々に姿を変えて侵入者を追い詰めてくる、魔法の迷宮の罠やモンスターの数々。緊急事態になんだけど、やっぱりワクワクしちゃうね!
何も知らずに迷い込んだら命はない、そんな危険に満ちた道のりを、未熟な部分もありながらもそれぞれの才能を発揮して踏破していくナナオたち。一足飛びに成長を遂げていく感じが熱いです。
しかしつくづく感じるのが、ミリガンら上級生たちとの力量の差。オリバーもシェラも1年生ではエリートなのに、こうまで違うものですか。ミリガンとの戦いは本当にギリギリで勝ちを拾ったようなものだったんだなあ……。


学園中から危険視される魔女オフィーリア。そんな彼女はしかし、どのようにして魔に呑まれるに至ったのか。ナナオたちの冒険の裏側で少しずつ語られていく魔女の物語は、むしろ本編以上に胸に刺さりました。
呪われた生まれを持ち、唯一の友人とともに学園に入って、ようやく少し素敵な未来が見えたかと思ったのに。これもまた魔法使いの、キンバリーの闇というものか……。
オフィーリアとカルロス、そしてゴッドフレイ。かつての友人たちで、いつまでも笑っていられればよかったのに。この結末は切なすぎるよ。
宿敵・リヴァーモアも地味にいい仕事してたなあ。ほんと、キャラクターに深みを持たせるのが巧いんだよなあ。
次からは二年生ということで、意外に時が流れるのが早いですね。今度は少し優しいお話を期待したいけれど、そうもいかない……のか?


ミリハンちゃん、マスコットキャラとして人気出そう。

『86―エイティシックス―Ep.6 ―明けねばこそ夜は永く―』感想

86―エイティシックス―Ep.6 ―明けねばこそ夜は永く― (電撃文庫)

ストーリー
誇り高く戦い、そして死ぬ。それが我らのさだめ。生への執着など、とうの昔に、はるか彼方に置いてきた。……そう思っていた。そう信じていた。だが戦場へ臨み、潰され、壊され、朽ちることを良しとする〈シリン〉達の姿は、「エイティシックス」である彼らの目指す生き方が、只の狂気であると蔑む。生きる意味とは何か。苦悩するシン。シンを理解しようと心を砕くレーナ。だがその想いは不格好にすれ違ったまま――連合王国の命運をかけた「竜牙大山攻略作戦」の火蓋が、無情にも切って落とされる……! 『連合王国編』完結のEp.6! 戦わねば、生き残れない。だが戦えば生きられるわけでは、ない。

怖がりながらも、手を伸ばしたもの
前巻から続く連合王国編の後編。雪に閉ざされた王国の未来を切り拓くため、ギリギリの戦力で実行に移されたレギオンへの一大反攻作戦の顛末を描く。
火山の中という極限状況の中での宿敵との戦い。毎度のことながら非常に緊張感が高く読み応えもあって素晴らしい、のだけれど。
今回はそれ以上に、生きるということについてのシンとレーナのすれ違いと歩み寄りを丁寧に描ききってくれたことに拍手喝采だ!


人の姿をしていながら交換の効く兵器として使い捨てられていく連合王国のシリンたち。そんな彼女たちの姿と自己を重ね合わせ、ショックを受けるエイティシックスの面々。
戦いのために生きるということは彼らがずっと志してきたものであり、また逆にそれしか望むことを許されなかったことでもあるのだけど、戦いの場にいなければならないという環境は、彼らにとってもはや過去のもので。
でも、ずっとそうだったから。その生き方しか知らないから。他の生き方を知ることが怖くて、外に踏み出すことができなくて。
だから、レーナがそっと近づいていこうとしても、シンはこんな風に彼女を避けることしかできない。表向き仲良くなったように見えていても、心の奥底の部分で、エイティシックスたちとの間の溝はまだまだ深いのだなと思わせられる。もしかしたらこのままどこまでもすれ違ってしまうのかなとさえ思えて、切なくなってしまう。どちらが悪いわけでもないのに。
ただ、今回のシンは驚くほど悩んでいて、悩むということはつまりもうひとつの道に気づくことができているということでもある。そこで一歩先に進めないのがもどかしいのだけど、さああと一歩、というところで、また次の戦いが始まる。


戦力的には圧倒的に不利な状況で、ワンチャンスに賭けた基地突撃・破壊作戦。我らが鮮血女王陛下はまたダイナミックな作戦を立案してくれたもんだな!
極寒地獄から灼熱地獄へ。火山の中での活動限界が迫る。一方でレーナのいる後方にも敵戦力が……。
ここで、自分の身を顧みずに行動に出ちゃうレーナにはほんと、こっぴどくお叱りだけど……彼女を失いたくないという恐怖が、彼にとうとうその思いを口にさせることになる。
えええ、なに、なんですか、この二人っきりの交信。ちょっと最高にきゅんきゅんしちゃうんですけど? ちょっと、まさか戦闘中にこんな風にぶっこんでくるとは思わず、完全に不意打ちだったのでノックアウトされちゃったよ……。なんだよこの二人、かわいいかよ……。いつかを思い出すような、シンの切実なつぶやきにグッときちゃいした。この台詞はずるいでしょ。
それにしても綺麗すぎるフラグ立てだったので、その後の宿敵との戦いがまあ不安だったこと! 最後の進化を果たした最強の敵との、火口での一騎打ち。めちゃくちゃ熱く、手に汗握り、そして心配でした。帰れよ。シン。絶対に帰れ。待っている人のもとに。そう、心から願いました。
次回「こそ」はライト回とのこと。信用……していいのか? たまにはゆったりとした日常を過ごしてほしいんですよ……本当に。


表紙とラストの見開きイラストが差分になっていることに今気づいて悶絶している。