まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『年下寮母に甘えていいですよ?』感想

年下寮母に甘えていいですよ? (ガガガ文庫)

年下寮母に甘えていいですよ? (ガガガ文庫)

ストーリー
僕は四ノ宮優斗。高校生だてらに自立した立派な大人だ。ある日出会ったのは、中学生にしか見えない自称寮母の九段下あるて。あれよあれよと、彼女の学生寮に住むことになったのだが――。「これからは私があなたのおかーさんです♪」なぜか『おかーさん』呼びを強要してくる。しかもそれだけじゃない。「おかーさんの胸で甘えてくださいね?」……だから、自立した大人は年下の女の子に甘えたりしないんだって! 頼むから帰ってきてくれ僕の平穏な生活! 甘やかしたがり年下寮母と人生お疲れ高校生が織りなす新感覚バブコメ爆誕!

他人に頼らずに生きていけると思い込んでいる少年が、おかーさん(年下美少女)の愛に触れて少し成長する共同生活コメディ。
し、新感覚バブコメ……。前作からの作風の転換ぶりには驚きましたが、あったかくていいお話でした。
年下寮母。なんて甘美な響き。謎のお世話力を発揮するおかーさんにだだ甘やかされて生きていきたい……。


自分は一人で生きていけるのだ、他人には頼らずにやっていけるのだと思い込んでいる主人公・優斗。
頑なに他人の手助けを拒むその不器用すぎる生き様は、見ていて実に歯がゆいですね。過去のトラウマがあるから仕方のないことなんですが、大人ぶっているところが逆にお子ちゃまに見えて、呆れてしまいます。
そんな彼が、母性愛の象徴のような年下寮母(おかーさん)と出会ったことはまさに運命……英語でいうとデスティニー……。
ただでさえ他の人に寄りかかりたくないのに、相手が年下の女の子ともなれば、当然ご飯を作ってもらうのも膝枕も拒否! でもおかーさんは甘やかすことを諦めない。それが彼女の生き様だから。頑固と頑固がぶつかりあう、ふんわりした共同生活バトルに、知らず頬が緩んできます。


学校のアイドルにして寮の中では甘やかされゾンビと化す美少女・弥栄。学校でも随一の不良にして実は生真面目お兄さんな門児と、寮のメンバーは個性派揃い。
幼馴染で従妹の真菜もいつも優斗のことを気にかけているし、あるては言わずもがなだし、彼は本当に周囲の人間に恵まれています。
こうしてみるとやっぱり優斗が群を抜いて変人に思えてきますね……。「源氏君が壊れた」ときにはほんとどうしちゃったのと思ってしまったよ! 両極端すぎる!
どれだけあるてが愛を注いでも受け取ろうとしない優斗に、いい加減イライラすらしてしまうんですけど、そんな高校生男子の反抗も全て包み込んで何度でもやり直してくれるから、母の愛って偉大です。いや、あるては母でもなんでもないんだけどさ……。
寮にも新たな変人(?)メンバーが加わり、さらなるカオスが繰り広げられそうな予感。ぜひ続刊に期待したいですね。


イラストははねことさん。見てくれこの慈愛に満ちた表情を。これが天使か。
あるてと弥栄のおかーさんタイムを描いたイラストが一番好きです。というかこのシーン一生見てられるな……。


全身全霊であるてに甘やかされたい一方、全身全霊で弥栄にこき使われたい自分もいる。性癖ってふしぎだ。

『神名ではじめる異世界攻略 屍を越えていこうよ』感想

ストーリー
平和だった高校が、ある日突然謎の霧に包まれる。竜崎時雨人は、取り残された憧れの先輩を心配するあまり校内に突入するが、そこはモンスターが跋扈する異世界の迷宮となっていた! 早速襲われピンチに陥る時雨人。しかし彼の放った攻撃が驚異的な力を発揮する。そう、この迷宮では、その者の持つ名前によって様々な力が付与されるのだ。竜と英雄、二つの最強の力を得た彼は迷宮攻略に乗り出すのだが――。死と裏切りに満ちたサバイバル・ファンタジー登場!

脱出不能の異世界ダンジョンと化した学園で繰り広げられるサバイバルバトルアクション。
予想していたよりだいぶ殺伐としたストーリーでしたが、名前が能力に変化するという設定は中二力高くてとてもいい!
好きな女の子のことしか考えていない脳筋主人公がちょっと鼻についたかなあ。


突如異世界のダンジョンとドッキングし、外の世界と断絶されてしまった学校。皆から一足遅れてやってきた主人公・シグルは、最愛の先輩・真美加を探し出すべく冒険を始める。
なんだこの主人公は……。こいつガチで先輩のこと「しか」考えてねえ。いや、惚れた相手のために謎のダンジョンに飛び込んでいくのはそれなりにカッコいい部分もあると思うけどさ。二言目には「真美加先輩が」って言いだすし、先輩へのお土産だからってパイナップルケーキを頑なに渡そうとしないし、この極限状況なのにさすがに周りが見えていなさすぎるのでは。正直ドン引きです。
恋のエピソードがしっかり進んだ後ならば、まだ納得できたかもしれませんが、付き合ってすらいないのに(!)いきなりこんな単細胞ぶりを見せられてもという感じ。どうも好きになれない主人公でした。


名前が能力を表す異世界だから、名前の意味によって個々の能力が変わってくるという設定、大好きです。「竜崎」だから竜を召喚できるとか、「剣也」はいくらでも刀剣を出せるとか、サイコーでしょ!
一方、不穏なサブタイトルに気付かずに読んだので、登場人物たちがあっさりと、次々に命を落としていく展開にはちょっと驚きました。台詞があろうが、パーティーメンバーだろうが、やられる時はやられちゃうし、なかなかに容赦ない。
そんな彼らの命を奪っていくのは、もちろんダンジョンの仕掛けやモンスターもそうなんだけれど、一番は人間同士の対立だったっていうのがまたエグい。せっかくの能力をそんなことに使ってしまうのかと切なくなってしまいます。まあこんな状況で2ヶ月もいたらなあ。色々と変わってしまうよなあ。
物語はなかなか意外な方向へと進みましたが、今後は完全に異世界のお話になっていくんでしょうか。名前と能力の設定はどうにか2巻以降も活かしてほしいんですけど、地球の人間はもう出てこないかな……? ヒロイン・イファは純粋に可愛かったので、彼女の活躍には期待しています。


イラストは三弥カズトモさん。可愛さと格好良さの同居した素晴らしいイラストでした。
ドラゴンやモンスターとの戦いの場面もしっかり描いてくれていて嬉しいですね。


当然自分の名前で妄想しちゃうわけだけど、うん、ペンキをぶちまける能力か……(弱そう)。

『先生とそのお布団』感想

ストーリー
これは石川布団という作家と、人語を解す「先生」と呼ばれる不思議な猫とがつむぎ合う苦悩と歓喜の日々。企画のボツ、原稿へのダメ出し、打ち切り、他社への持ち込みetc…。布団はさまざまな挫折と障害に直面しながら、それでも小説を書き続ける。ときに読者に励まされ、ときに仲間に叱咤され、素直に、愚直に、丁寧に、ときにくじけて「先生」に優しく厳しく叱咤激励されながら――。売れないライトノベル作家と「先生」とが紡ぎ合う、己が望む「何か」にまだ辿り着かぬ人たちへのエール。優しく、そして暖かな執筆譚。

喋る猫「先生」に叱咤激励を受けながらライトノベルを書きつづける売れない作家の物語。
あー、なんだろうなー、色々と胸に迫るものがあるのは確かなんだけれど、これどこまでフィクションでどこまで史実なんだ……とりあえず喋る猫は史実としても……。
この才能を埋もれるにまかせてしまった読者の1人として忸怩たるものがある(何様なんだ)し、ちょっと冷静には読めませんでしたが、面白かったです。


石川布団(ペンネーム)、売れないライトノベル作家。デビュー作は『猛毒ピロリ絶賛増殖中』全3巻、次作は『タカムラさんの修学旅行で無人島漂流からの大逆転サバイバルマニュアル』。以後他レーベルへの持ち込み等で新シリーズを出すも、ことごとく打ち切りの憂き目にあう。
いやあ、これは、まあそういうことですわな。作者本人の体験を小説に落とし込んだような作品はいくつか読んだことがありますけど、ここまで「まんま」だとなんだか落ち着かない気分です。いや、どこまで「まんま」なのかは知らないんだけど。お話の雰囲気的に。なんというか。こう。
執筆風景や、作家と編集のメールや電話のやりとりなど、リアルな作家の日常は楽しく興味深く読めました。『少女御中百合文書』を改稿する場面など最高です。作家ってすげー!
一方で、新作の企画がなかなか通らなかったり、売り上げが振るわずに打ち切りが決まったりするのはやはりキツい。吸血鬼のやつとか、やきゅ……じゃない、相撲のやつとかは僕も読んだし、アイドルのやつなんか諸手を挙げて応援したし、なんなら『このライトノ……じゃない、『いますごいラノベはこれだ!』にも投票したというのに! なんでよ! どうしてなのよー!
いや、落ち着け。これはフィクション、あくまでフィクションだから……。


小説の執筆と同じくらい丁寧に描き出されているのが、猫への愛です。「先生」は人語を解するおかしな猫ではあるけれど、たぶんそうでなくても、1人と1匹だけで暮らす中での対話というか、そういうものがあるんだろうなあと、両者の穏やかなやりとりを読む中でじんわり感じとりました。他のいのちと一緒にいるっていいもんだなあ。
作家仲間の和泉がどんどん高みへと上っていく一方、新作をまず出すことにすら難儀をし、出しても売れず、を繰り返す布団氏。
でも書く。色んなレーベルを渡り歩いて持ち込みをしてでも、同人誌としてでも、作品を世に送り出す。そこに書かないという選択肢はない。
パッと見では、布団氏に、小説執筆に対する特別強い情熱や思いがあるようには感じられない。もしかしたら胸の内に秘めているのかもしれないが、ともかく表からはあまり見えない。でも書いてる。当たり前のように。息をするように。作家というものは、まったく不思議な生き物だなあ。
石川布団氏のこれからの活躍に期待しています。心から。


イラストはエナミカツミさん。この表紙の冴えないおじさん感がすごくいいですね。
あと「先生」。積極的にモフモフしていきたい。


女の子からのメールの行間なんて読めるかー!