まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

独創短編シリーズ 野崎まど劇場

ストーリー
テキサス一の早抜きと謳われた悪童、ビル・エブリデイに狙われた町
迎え撃つは保安官、ジョン・ギャレット。
ダディとローラが見守る中、両者の一騎打ちが始まる……。



いざ感想を書き始めて、「ストーリー」と打ち込んだ後に、しばらく頭を抱えました。ストーリー。ストーリーってなんだ。
そもそもこの本にストーリーなるものが存在するのか。いやない。ストーリーなどただの飾りにすぎない。この本が伝えたいのは、もっと、感性とか爆発とかシュールレアリスムとかいったたぐいの別の何かだ。そうだ。そうに違いない。シュールレアリスムが何なのかはよく知らないけれども。


24編の短編が収録されたカオス極まる短編集。晴れての電撃文庫デビューがこれでいいんでしょうか。野崎先生。
帯に書かれていた竹宮ゆゆこ先生のコメントが素晴らしすぎて、もうこれを丸っと引用するだけでいいんじゃないかなとさえ思えてきました。だめですか。そうですか。
いやもうほんとにですね。こんな感じなんですよね。読んでるときのこちらの気持ちはね。
出だしの書き下ろしからしてそうですよ。もうね、ぶっちゃけるとめちゃくちゃ笑ってしまったんだけれど、同時に頭のどこか片隅では、「こんな幼稚な仕掛けで笑っちゃって本当にいいのか」という疑問がぐるぐると渦巻いていましてね。
短く言うとつまり「くそっこんなんで」というアレです。あの気持ちです。
24本全部がそんな感じなのだから、困ってしまいますよね。もちろん、24本全部がツボにハマればの話で、そんなことはありえないので、数本に1本くらいのペースで「真顔」が入るわけですが。しかしそれでさえも、盛大にスベっているお話を大真面目になって読んでいる自分がどこかおかしくて笑ってしまう。こんなのずるいよ!


電撃文庫MAGAZINEで連載されているときから好きで読んでいたのですが、ああやって1本ずつ読んでいた頃は、まだ私の思考回路もまともだったはずなのです。
それがこうやって集まっただけで、こんなにも心動かされてしまうのだから、恐ろしい。
そもそも、あれが書籍化されるなんて思ってもみませんでした。図がなければ成り立たないネタがたくさんありますから。まさかその図までそのまま載っけてしまうとは、いやはや、編集部の勇気に乾杯であります。
個人的に好きなタイトルは、「Gunfight at the Deadman city」「魔王」「苛烈、ラーメン戦争」「苛烈、ラーメン戦争 ―企業覇道編―」「王妃 マリー・レクザンスカ」「第二十回落雷小説大賞 選評」「TP対称性の乱れ」あたりでしょうか。あ、あと「あとがき」も。
やっぱり、絵や図を使ってぶっ放してくるネタの破壊力には凄まじいものがあると思います。
突っ込みどころ満載というか、もはや突っ込みどころ以外に何もない感じですが、面白かったです。続編もあるのでしょうか。期待したい。


イラストは森井しづきさん。作品に合わせて絵柄を変えていくそのプロ根性に平伏です。
イラストだけ見るならば、「バスジャック」「ライオンガールズ」の女の子が可愛らしいので、ぜひ他の、もっとまともな(!)作品でもイラストを見てみたいですね。


カバー裏にも掌編が載っていることについ先程になって気付きました。なんてこった。