まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

終わる世界のアルバム

終わる世界のアルバム (メディアワークス文庫)

終わる世界のアルバム (メディアワークス文庫)

ストーリー
前触れもなく人間が消滅し、その痕跡も、周囲の人々の記憶からも消え去ってしまう世界。
そんな世界に住みながらも、写真を撮ることで、例外的に消えた人の記憶を保持することができる少年マコ。
ある日マコは、いなかったはずの少女がクラスの一員として溶け込んでいることに気付く……。



単行本で出版された作品の文庫版です。
杉井先生のファンとしてはもちろん読む一択であるわけで、単行本もしっかり発売月に買っていたのに、なぜか読むタイミングに迷ってしまい、そうこうしているうちに文庫化されて、結局そっちを買って読むという謎の事態に。
文庫サイズばっかり読んでいると、たまにハードカバーを読もうとしてもなかなか手が出ないものなのですね……。


切なさ満点のお話でした。人が消える。死ぬのではなく、そっと、静かに消える。これが切ない。
不思議と、重苦しさはないのです。登場キャラがどんどん消えていくのですから、話も重くなっていきそうなものですが、そうはならない。
これもやっぱり、死ぬと消えるのとの違いなのかもしれません。誰も気が付かなければ、そこに悲しみは生まれませんから。ただただ、切なかったです。
そんな世界で、マコが持っているのは、消えた人のことを覚えているという嫌な能力。
しかも写真を撮るか撮らないかで、それをコントロールできるのだから、本当に嫌なものだと思います。
自分以外の誰もが忘れている人の消滅を、ただひとり知っているというのは、どんな気持ちでしょうか。
忘れたい? そうかもしれない。でも消えてしまったのが自分にとってかけがえのない相手だったなら。そんな簡単に忘れようと思えるでしょうか。
そんな別れを何度も何度も繰り返してきたのが今のマコならば、これだけ感情が希薄なのも、分かるような気がします。


奈月は、ヒロインとしてもキャラとしても薄味で、莉子に食われてしまいそうなほどでしたが、それが文字通り、今にも消えてしまいそうな雰囲気を醸し出していて、思わず抱きしめてしまいたくなるような女の子になっていたと思います。
しかし、まあ、なんですか。最後まで読んでからパラパラと読み返すと、終始謎めいていた彼女の行動全てに意味があったのだと分かって、たとえばラジオを聴きながら、たとえばロックのCDを聴きながら、彼女が何を思っていたのかと考えると、胸がきゅーっと苦しくなりますね。
消えてゆく人を見送る切なさと、見送られながら消えてゆく切なさと、さて、どちらがより染みたのかはことばにできませんが、なんとなく海が見たくなりました。
しっかり読み返すのはちょっと辛いけれど、またいつか、忘れた頃に読みたいですね。


2人だけのビートルズ。ちょっと気になる。