まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

丘ルトロジック4 風景男のデカダンス

ストーリー
いつものように都市伝説《ビッグフット》を取り返す計画を立てていた丘研メンバーたち。
そんな折、沈丁花の正体に疑問を持った江西陀が、オカルトとして彼女のことを調べようと咲丘に持ちかけてくる。
自分の信じる代表のことを疑われた咲丘は、すっかり気分を害してしまい……。



4巻目にして最終巻。端的に述べさせていただきます。大傑作でした。
読み終わってから丸1日ほど経っているのに未だ興奮冷めやらず、次のラノベに手を出すこともできず、息抜きにアニメを見ようと思っても全く頭に入って来ずに諦める始末。
1巻を初めて手にしたときは、まさかこれほどまでに好きな作品になろうだなんて思ってもみませんでした。
第一印象では、正直あまり好みではなかったのです。それでも最後まで読み続けて、本当に良かった。


不死者、シェイプシフター、ツチノコなどなど、さまざまなオカルトと出会い、ある時は仲間に加え、ある時は打ち倒してきた丘研。
そのオカルトの行き着くところ。最後にして最大のオカルト。それはそう、沈丁花桜その人。
最初から、こうなることはなんとなく分かっていたような気もします。
少なくとも、どんなオカルトよりも、丘研のメンバーたちの方がずっとオカルトじみていたことは紛れも無い事実で、そしてその中でも最高に最凶に狂っていたのは、間違いなく沈丁花と咲丘のふたりなのです。
強い絆で結ばれていたようで、その実決して相容れない信条を固く持った両者が、いつか袂を分かち、ぶつかること。それは必然であり、避けられない未来だったのかもしれません。


狂っているのだとそう知っていたはずなのに、まだまだ甘かった。沈丁花桜という人間は、そんな陳腐なことばではとても言い表せないほどに、黒く深く一直線だったのです。
出島先輩も萩先輩も怖すぎるよ! 共に戦う上では頼りになる分、相手に回すと超凶悪でした。勝てる気がしない。
さらにその上にカリスマ指導者である沈丁花がいるわけで、いやはやとんでもない。改めて、丘研というのは恐ろしい集まりだったのだと確認させられます。
自らの価値観のため、天上から何もかもを見渡し、全てを操り、世界へ牙を剥く沈丁花
どんな信念があろうとも、こんな非道の極みのようなやり方に賛同することはとてもできません。なのに、なぜかゾクゾクさせられてしまう。それが怖い。
破壊、暴力、炎。沈丁花が放つことばの数々。おぞましい。しかし心を動かされてしまう何かがあります。
芸術を叫ぶ沈丁花だけではありません。風景を喚く咲丘も、ロックを歌う香澄も。誰一人、私の理解の範疇には入っておりません。
沈丁花と咲丘の対峙など、両者が何を言っているのかさっぱり分からない。分からないのに引き込まれる。魂が燃える。得体のしれないものが胸に突き刺さる。
致命的なほどに世界から見放された彼らのことばを前に、理解もできず、納得もできず、ただただ、圧倒的なエネルギーの奔流に打ちのめされました。
もしかしたら、これが芸術とロックと爆発のある風景なのかもしれません。その真偽は、誰にも分からないけれど。


これだけさんざんなことをやり散らかして、こんなオチを用意しているあたりがなんともニクいよなあ。
この作品が生み出した至上のヒロイン、江西陀梔。本当に大好きなキャラなんです。とても嬉しい。最終ページの一瞬後の丘研部室の様子を見たくてたまらないですね。
お話はこれで幕を閉じます。書ききれませんでしたが、咲丘や沈丁花だけではなく、あのキャラもこのキャラも、皆が思う存分活躍を見せてくれた最終巻となりました。
人間不信者も、マゾヒストも、嘘つき女も、オカルト存在も、そうでない者も。誰も彼もが全力で前へ前へと生き抜こうとしていた物語だったと思います。
読み終えた今、この胸の中に流れる音楽はいかなるものでしょうか。いつかそれを知る日が来たらいいなと、丘研メンバー勢揃いの表紙を眺めながら、ふわふわした頭でぼんやり考えています。
衝撃のデビュー作を、期待を遥かに上回る最終巻で見事に締めてくれた耳目口司先生。そして、完璧なイラストで文章の魅力を(特に江西陀の魅力を!)限りなく高めてくれたまごまごさん。
この作品を生んでくれて、ありがとうございました。次回作も楽しみにしています。


結局下の名前は明かされず、ですか。しかしそれでいい。それがいい。