まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『いずれキミにくれてやるスーパーノヴァ』感想

いずれキミにくれてやるスーパーノヴァ (角川スニーカー文庫)

いずれキミにくれてやるスーパーノヴァ (角川スニーカー文庫)

ストーリー
他星のお姫様を自称する「スピカ」とのトランシーバーを使った会話だけを楽しみに生きる高校生のイズミ。彼の日常はスピカが地球に「墜落」したことで一変した。その日から自転車や人は空を飛び、スピカはイズミの妹だと認識された。改変された世界と甘えてくるスピカを戸惑いつつも受け入れたイズミだったが、今度はスピカを狙う別の宇宙人が現れ――「おまえは『この星』にいていいんだ」宇宙人と「妹」を巡る、青春ファンタジー

圧倒的オーラのあるタイトルに惹かれて。
空から落ちてきた女の子によって改変された世界で、弱くてだめだめになってしまった「僕」が妹を守るためにまた立ち上がる青春SFストーリー。
台詞や文章のそこかしこからロマンティックが溢れて止まらない……これがポエムライトノベル作家の本気……!


毎日深夜10分だけ、1万光年先のトロイメライ星のお姫様・スピカとトランシーバーで交信するイズミ。
もちろんイズミも高校生なので、本当にそれが宇宙との交信であるはずがなく、相手も銀色の髪のお姫様じゃないことなんて百も承知なんだけれど、そんなつまらない常識なんてどうでもよくなってくるくらいに素敵な場面が描きだされています。
日常に疲れきってしまった少年の、10分間の美しい妄想と逃避の時間。この時間だけはイズミは間違いなくエレメンタル第三惑星地球のイズミで、相手はストラト星雲第七惑星トロイメライのスピカだ。それはこの二人にとっては絶対の現実なんだと、そう思わせてくれる。
でも、そんなスピカがイズミに「会いたい」と言いだしてしまったら。壊れてしまう大切な時間を惜しみつつ待ち合わせ場所に向かったイズミは、スピカが本当に空の上からやってくるのを目にするのです……。


スピカの力・ノヴァによって世界は改変され、自転車は空を飛ぶようになり、スピカはイズミの妹になった。確かなものが何もなくなってしまった世界でただひとつイズミのことを繋ぎとめるのは、スピカの存在だけ。
元々のスピカとはどうも性格も違うようだし、何かと厄介ごとを持ち込んでくる女の子だけれど、スピカにとってもイズミの存在は唯一で、だから当たり前に守ってやらなくてはならなくて。妹が不安げな顔をしていたら、もちろん兄は優しく頭を撫でてやらなきゃいけない。そういうもんなんだ。
幼なじみの小鳥への引け目から、自分の弱さを感じて、誰も守れなくなっていたイズミ。図らずも妹ができて、守るべき相手ができたことで、また前に進むことができるようになりました。まさに運命的な出会いというかね。ずっと彼のことを近くで見守ってきた小鳥からすれば、嬉しいような切ないような、かもしれませんが。
スピカの身に迫る危機。犯人の切実な動機と、イズミとの間にあった思わぬ過去と。
相変わらず弱っちくて助けがなければなんにもできない「僕」かもしれないけれど。自分の意志で決断して、倒れてもまた立ち上がって、キミに手を伸ばす。陳腐で情けなくて、でもちょっぴりカッコいい、まっすぐな主人公像が良かったです。
スピカと小鳥と、それからスミレと。3人の女の子たちとの奇妙に捻れた関係が今後どんな風に移り変わってゆき、そしてイズミはどんな選択をするのか。2巻以降も続いてくれると嬉しいです。


イラストはAちきさん。表紙のスピカの透明感たるや!
それにしてもP224のイラストには驚かされました……!


「渋々わかった」って口癖使っていきたい。