まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

東池袋ストレイキャッツ

ストーリー
ずっとひきこもって音楽ばかり聞いていたハルは、ある日ゴミ捨て場で、真っ赤なギターを拾う。
そのギターには、交通事故で死んだギタリスト、キース・ムーアの幽霊が取り憑いていた。
幽霊に尻を叩かれ、池袋で路上ライヴを始めたハルは、沢山の路上パフォーマーたちと出逢っていく……。



杉井光×音楽×池袋! もはや読まない理由がないとさえ思えるこのコンビネーションに、本屋で手に取った瞬間からテンションマックスでした。
池袋という街の舞台効果でしょうか。物語全体に流れる、ぬるくてホコリっぽい空気感が、路上パフォーマーのほの苦い生きざまを表しているようで、何の目的もなく池袋に行きたくなってきてしまいました。
連作短編で読みやすいし、細かい知識に裏打ちされた音楽ネタと演奏の描写はさすがのひと言だし、恒例の「才能のありすぎるメインヒロイン」もたいへん魅力的。ううむ、満足じゃ。


収録されている短編は5本。物語は、引きこもりの少年・ハルが、ゴミ捨て場で1本のギターに出逢うところから始まります。
ギターに取り憑いていたギタリスト・キースに唆されて、音楽の世界へとはまり込んでいくハル。
学校にも行かずギターばかり弾いて、外に出たかと思ったら池袋の路上で法律違反のライヴを始めるなんて、世間からしたらろくでもない不良少年にしか見えないかもしれませんが……。誰にだって、逃げ出したくなることくらいあります。ずうっと部屋の中にいることに比べれば、むしろ健全かもしれません。
逃げ場所として選んだ音楽。でも得てして、才能というものはこういうところから掘り起こされるもの。
自分でも気付いていなかった曲作りの才能にハルが目覚めるまでの展開は、ちょっとほろ苦いものもありつつ、どこか救われたようにも感じられて、よかったです。大多数の人とずれていたとしても、自分にしかできないものが何かひとつあるっていうことは、素敵なことですよね。


池袋でハルが出逢う路上パフォーマーたちは、誰も彼もクセが強くて、でも根っこはいい奴ばかり。
その中でもひときわ異彩を放っているのが、ヒロインのミウですね。
表世界ではトップミュージシャンとして活躍していながら、夜な夜な池袋にやってきては路上ライヴに顔を出していくというミステリアスさがたまらなく魅力的。
いつも毒舌な彼女ですが、なんだかんだ言いつつハルと一緒にいて、他の人には(たぶん)見せない本音を時折ぽろりと零していくあたりが、猫っぽくて可愛いと思います。
第5話は、そんなミウの内面に迫るエピソードでした。売れっ子ミュージシャンといえど、中身は17歳の揺れ動く女の子です。いつも強気なミウが見せてくれる色んな表情、そのギャップに、くらくらと来てしまいました。
誰も手を差し伸べることができない中、ひとりだけあっさりと答えにたどりついてしまうハルは、なんともずるいですね。本当にずるい。


作中にもありましたが、一生ずっと路上パフォーマーでやっていけるわけではありません。
外に出て、少し前に進んだハルが、これからどうするのか。学校に行くのか、プロを目指すのかは分かりませんが、その選択をぜひ見届けたいものです。
続いてくれるかな。続くといいな。期待して待ってます。


イラストはくろでこさん。色あせた写真のような表紙が、とてもいいですね。
あとミウのでかサングラスがめちゃくちゃ可愛い! そしてサングラスを取っても可愛い!


いつか暇な日に、この本を片手に池袋に行こう。