まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

春期限定いちごタルト事件

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

ストーリー
小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。
清く慎ましい小市民を目指す二人だが、そんな彼らの前に次々に現れる日常の謎
名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまい……。



同作者の別作品を読んで以来、ずっと気になっていた今作。ようやく手に取る機会を得ました。
いやあ好きですね。ちっちゃな謎がひとつ解かれるたびにニコニコしてしまいます。
最後だけはそれなりに大きな事件になりましたが、他の4つの謎は「頭をちょっとひとひねり」という感じ。ココアの作り方なんて、なんとも可愛らしいではないですか。
怖気が走るようなミステリもいいけれど、なんでもない日常の中に隠れた謎を見つけて解き明かしていくのは、それだけでお宝探しみたいでわくわくしますよね。


「小市民」を標榜する小鳩君と小佐内さんがお話の主人公。ううむ、なんとも不思議なふたりですね。
このふたりの関係が作中一番の謎かもしれません。別に好き合っているわけではないはずなのですが、それにしてはやたら一緒にいるような気もするし。
互恵関係なんていうと冷めた印象を受けるけれど、お互いのことをよく知っていて、その上で相手を心配するような様子も見せていて、ただの友人よりもよっぽど近い間柄のようにも思えます。つかず離れずの、この微妙な距離感がなんともくすぐったい。
彼らの過去に何があったのかということが、目下最大の関心事になりますね。まあ小鳩君については大ざっぱながらも描かれた部分もあるので、特に小佐内さんの過去が気になるところです。ただの引っ込み思案な女の子にしては妙に怪しいところがあると思っていたのですが……。まさかの本性にはニヤリとさせられました。
あ、もちろん普通に可愛い部分もたくさんあります! 普段表情が乏しめなだけに、甘いものを口にして頬をゆるめたり、「あなただけにそっと見せちゃいます」のメールに頬を染めたりするだけで破壊力抜群でした。私も服の裾を掴まれて背中に隠れられたい。


5本の中では「For your eyes only」と「おいしいココアの作り方」が特に好きです。
前者は絵の謎自体も面白かったけれど、なにより最後の数行にやられましたね。背すじがゾクッと。気を抜いているとこう来るんだから油断なりません。
後者は上にも書いたとおり、ココアの作り方なんていうもので謎解きをしようとするのがすてき。一番短いお話なんですが、小鳩君も小佐内さんもどこか楽しげだったからでしょうか、胸がほっこりしました。


この終わり方には思わず噴き出してしまいました。変に達観しているよりも、これくらい自分に素直な方が微笑ましくていいですよね。
たぶんこれからもどんどん舞い込むのであろう謎の数々を前に、小鳩君と小佐内さんは小市民を貫くことができるのでしょうか。
ふたりの過去のことや、クレープみたいに「甘すぎる」方面のことについても、少しずつ描かれてくれるといいな。次巻もすぐに読みます。


巻末の解説者の名前を二度見。これを見て「じゃあライトノベルってことでいいか」と思ったのはここだけの秘密。