まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

小さな魔女と空飛ぶ狐

小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫)

小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫)

  • ストーリー

レヴェトリア空軍のエースパイロット・クラウゼは、ある日突然、"内戦解決の切り札"とされる天才科学者の補佐を命じられる。
待っていたのはわずか16歳のお嬢様・アンナリーサだった。
彼女はその才能を生かし、次々と新兵器を開発していくが、敵側にも天才科学者が存在するらしく……。


公式のあらすじを読むと戦争ものとはいえわりと気楽で軽い物語であるかのように感じるのですが、全然そんなことはありませんでした。
少なくとも「現代の御伽話(ウィッチ・テイル)」などと銘打つにはあまりに暗くて残酷な部分が多すぎる。
まさか本文を読む前からだまされていたとはね。電撃文庫編集部、流石のやり手でございます。


あらすじではだまされましたが、内容では楽しめました。
物語の舞台は内戦巻き起こる共和国家・サピアと、その内戦を裏で操る周辺国家たち。
空想上の国々ですが、どうやら現実のヨーロッパ周辺の国をモチーフにしているらしく、どことなくリアリティがありました。
その内戦でぶつかり合うのが、2人の天才科学者、アンナリーサとアジャンクールが開発した新兵器の数々。
天才同士による新技術の開発競争には心が躍りますが、それが全て戦争のためだと考えるとどうしようもないやるせなさを感じずにはいられません。


初めのうちは兵器を作りだすことに躊躇しなかったアンナリーサ。
そんな彼女が人の死を間近に見て自分の罪に気付き苦悩する姿は胸に響きました。
ペンを走らせるだけで数万人を殺す天才でも、彼女は1人の女の子であり、人間なのだと思わされます。
戦争の狂気に踊らされても人間らしい心を失わなかった彼女の強さと弱さにどこかほっとしました。
一方のアジャンクールは戦争で正気を失い、復讐と喜悦で兵器を作りだす悲劇の天才です。
アンナリーサと対照的なその生き様はとにかく悲しい。彼が失った30年はあまりに大きかった。


その他にも、クラウゼ、イングリッド、エマと、戦争で多くを失った人物がたくさん登場します。
もちろん物語で描かれていないところでも無数の人々が嘆き悲しみ心を失っていったのでしょう。
上滑りした言葉にしかなりませんが、やはり戦争は害しかもたらさない無意味なものなんだ。そう思う。


暗いことばかり書いてきましたが、もちろん明るく楽しい描写もあります。
アンナリーサのわがままっぷりは年相応というか、子供っぽくてほほえましいですね。
お互いを激しく意識するアンナリーサとアジャンクールの激昂っぷりも愉快でした。補佐官のクラウゼとエマにはたまったもんじゃないと思いますが。そんな苦労性の2人も見ていて楽しいです。
次第にクラウゼに惹かれていくアンナリーサがとても可愛らしいので、続編があるなら恋愛方面にも期待したいところですが、おそらくこの1冊で完結でしょう。


イラストは大槍葦人さん。絵の雰囲気が作品によく合っていたと思います。
欲しいところにイラストがなかったような気もしますけど。