まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか15』感想

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか15 (GA文庫)

ストーリー
深層の決死行を乗り越え、地上の帰還を果たしたベル達。それぞれが果たした冒険の成果は『成長』の証。確かな前進に喜ぶ傍ら、ふと彼等彼女等はこれまで歩んできた道のりを振り返る。少年は始まりの日に還り。女神は追憶を映す炉の光に目を細め。小さき少女は灰の過去を乗り越え。鍛冶師は遠き日を重ねた空を仰ぎ。受付嬢は昔日の傷を。妖精は正義の誓いを。黒烏は金狐との今昔の物語を想う。今と過去が織りなす日常編。『英雄』が生まれる地に束の間の安らぎを。これは少年が歩み、女神が記す、――【眷族の物語】――

前巻がとんでもない(とんでもなさすぎる)冒険の回だったからか冒険は少しお休み、各キャラの過去にスポットを当てた日常短編集。
この短編、アニメの円盤特典小説なんですね。ベルがオラリオに着いた日の出来事だったりとか、ちょっとしたものだけれど地味に大事なエピソードがいくつも入っていたので、こうして読むことができてありがたい限りです。
7話で8人のキャラクターについてそれぞれ過去のエピソードが語られるわけだけれども、どの短編も興味深く読めてしまったのは、この作品のキャラクター陣が全員、サブキャラに至るまで、それだけ魅力的だってことですよね。それって実は凄いことなんじゃないかなあと思うわけですよ。


前回の冒険を経てまた成長を遂げたファミリアメンバー+αの今の状況を描く間章と、そんな彼ら彼女らの生まれやオラリオに辿り着いた頃のエピソードを描く短編。それを繰り返す形の短編集となっています。
ベルとヘスティアは、真面目とぐうたらの違いはあれど、なんだか似た者同士なエピソードでしたね。そうだよなあ、この二人から始まったんだよなあ。それが今や、これだけのメンバーが集まって、ベルもLv.4で、なんだか感慨深くなってしまいます。もっとも、作中ではベルがオラリオに来てからまだ半年しか経ってないらしいのだけど……衝撃すぎる……。
リリはなんとランクアップ! いやーこれは驚いた。なんだかんだでやっぱりリリには思い入れがあるというか、なんてったってベルの初めてのパートナーだし、ベルに出会う前には苦労と不幸を重ねてきた彼女がこうして日の目を見てくれることに心から嬉しさを感じますね。
ちょっと予想外だったエイナさんのエピソード。エイナさんじゅうよんさい! なぜエイナさんが冒険者に「冒険」はするなときつく言い含めるのか。その理由の一端が語られました。なるほど、こりゃベル君が毎回怒られるのも致し方ない。


ヴェルフは遂にヘファイストスといい感じに……ならなーーーい! 何やってんだこのおバカ! あのヘファイストスがこんなに可愛い姿を見せてくれたというのに! いや、マジでヘファイストスさん激カワじゃないですか。「もぉ!」って何! 神の中なら群を抜いてヒロイン力が高いかもしれん……。
一番楽しみだったリューさん。はい完全にメインヒロイン。不器用エルフ萌え。そんな彼女は、過去でもどこまでも不器用だった。既に失われたものの美しさをこうして改めて語られると、どうにも切ないものがあるね……。
命と春姫の短編は書き下ろし。春姫の無垢な頑張りを姉のような眼差しで見守る命の構図が尊いんじゃー! ベル君は幸せもんだよ。
エピローグ、過去の英雄たちに思いを馳せるファミリアの面々と、そして今回も過去は描かれなかった最大の謎・アイズ。ヒントはいくつか出ていますが、彼女の謎が紐解かれるのは果たしていつのことやら……。
とりあえず次巻は「酒場の街娘」のお話ということで、彼女にスポットが当たるのもなんだか久しぶりな気がしますね。楽しみです。


今回の章扉、どれも素晴らしいイラストだったのだけれど……リリってこんなにえっちな体つきだったっけ!?

『葡萄大陸物語 野良猫姫と言葉渡しの王』感想

葡萄大陸物語 野良猫姫と言葉渡しの王 (角川スニーカー文庫)

ストーリー
様々な種族がひしめき合い、“葡萄”のように国が乱立する大陸の小国ランタン。流浪の少年メルは、多言語を話せる特技ゆえに、豹人族の姫シャルネの教育係に抜擢される。己の奔放な振る舞いにも常に優しいメルに、徐々に惹かれていくシャルネ。そんな折、大国との政略結婚を控えた彼女は相手の王を怒らせ、婚姻は最悪の形で破談に。二国間の緊張が高まる中、次期ランタン王に任命されたのは、なんとメル!? 王として彼が取った起死回生の策は、“シャルネと結婚し、豹人族の支援を取り付ける”というものだった! 言葉を操り、人を繋げ、敗戦必至の大戦に挑む。弱小王国の下克上ファンタジー、ここに開幕!

流浪の少年、国王となる
第24回スニーカー大賞<金賞>受賞作品。
様々な種族がひしめく大陸を舞台に、姫の教育係に任命された流浪の少年が小国の国王となり、姫とともに歩みだす姿を描いた戦記ファンタジー
面白かった! 丁寧に堅実に世界とそこに住むキャラクターたちを描き出していく、まっすぐで良質なファンタジー作品でした。これは応援していきたい。
天才軍師でも最強の戦士でもない、ただ人と人を繋ぐことに長けた少年が、いかにして王になっていくのか。可愛いという以上に人間的な魅力の溢れるヒロインと、周囲の登場人物たちの格好いい生き様にも注目です。


人間、豹人族、エルフ族などいくつもの種族が覇権を競い合っている葡萄の大陸。流浪の民の末裔・メルは、全ての言語を話せるという特技を持つにもかかわらず、その出自から職にありつけずにいる少年です。
そんな彼がたどりついた小国ランタンで抜擢されたのは、なんと豹人族の姫・シャルネの教育係。無邪気で破天荒な姫シャルネと、穏やかで優しい少年メル。傍目にもとてもお似合いの二人だけれど、シャルネには既に嫁ぎ先が決まっていて……。
前半は、そんなメルがシャルネの夫に、そしてランタンの次期国王になるまでの物語。自由奔放でどちらかといえば野性的な少女シャルネが、メルと心を通わせる中で初めて恋を知っていく様子ときたら、今どき珍しいくらいにピュアッピュアで最高。
シャルネの政略結婚の相手・大国バツの国王がまた絵に描いたような嫌なやつで、望んだ相手と結婚できないという王族の悲哀を真っ向から蹴散らすようなシャルネの一喝が実に痛快。メルとシャルネは二人で主人公だけれど、どちらかというとヒロインのシャルネの方がイケメン担当だよなあ(笑)。
それから前半の立役者はなんといってもランタンの現王エデル。この小国を守り抜くために全てを賭けた真の名君の姿がここにあった。めちゃくちゃ格好いいぞ、このおっさん。


後半は王となったメルに早速訪れる危機、大国バツとの大戦が描かれます。
メルはなしくずし的に国王になったものの、未だ未熟。シャルネのような覇気も、エデルのような器の大きさも持ち合わせてはいない。だからこそ、周囲の力のある人々の力を借りなければなりません。そしてその時こそ、他の種族の心を動かすメルの才能が花開いてゆくのです。
多言語を話せるというのはあくまでも技術に過ぎない。豹人族の信頼を得て、エルフ族との仲を取り持っていく、それができるのはメルが言葉を話せるからではなく、お互いの心を繋げる彼なりのやり方を知っているから。人々をまとめて力を結集する、なるほどこれは国王の器だ。
迫りくるバツの大軍。対して籠城の構えのランタン軍。お互いの軍師は共に才能溢れる人物。メルやシャルネに限らず、魅力的なキャラクター陣が乱舞する。そしてその先に見えてきた新しい時代の予感。
二人で一つの国王が、これから世界をどのように作り変えていくのか、ぜひ最後まで見届けたいものです。続刊を楽しみにしています。


イラストは紅緒さん。コロコロと表情の変わるシャルネが可愛い。
キリンさんの笑顔ももっと見たいぞ!!


男ではアーデルハイドが結構好きです。

『所持金ゼロの彼が資産家令嬢から求められるようになった理由』感想

所持金ゼロの彼が資産家令嬢から求められるようになった理由 (角川スニーカー文庫)

ストーリー
貧乏生活を送る高校生・天満清太郎が出会ったのはお金持ちJKの美少女探偵!? ひょんなことから美少女の助手となった清太郎は、彼女のお屋敷に居候することに。お嬢様と一つ屋根の下、二人の仲は急接近していくかと思いきや――彼女が求めているのは、彼の貧乏に隠された力だった!? しかし二人で事件を追ううちに、いつしか清太郎自身もお嬢様から求められていくようになって――!
「アンタの貧乏全部ひっくるめて、好きよ、清太郎!」
所持金ゼロの高校生が資産家令嬢に愛されまくる! 貧乏を幸せに変えていく新感覚の身分差ラブコメディ!

第24回スニーカー大賞<金賞>受賞作品。
貧乏神と共に暮らす少年が美少女霊視探偵と出会い、彼女の助手として街の事件を解決していく異能ラブコメ
主人公を強引に引っ張っていくタイプのヒロインと、実はヒロインよりも遥かに変人なハイスペック貧乏性主人公のコンビが面白い。
主人公の思考があまりにトリッキーすぎて時々ついていけなくなるのですが、代わりに別の語り手を用意しているあたりが上手いなと思いました。


生まれた時から貧乏神・恵拏俚と一緒にいたために、貧乏でいることを当たり前に受け入れつつも幸せに暮らす高校生・清太郎。勤労少年だし誠実で優しいし抜群の身体能力も持ったスーパーハイスペック主人公なのだけど、金銭に対する価値観だけが世間と致命的にずれている……。
ヒロイン・叶絵は、高校1年生にして現役霊視探偵という才能の持ち主であり、そのことを自負している少女。一方、強気な態度の裏で必死で背伸びしているところなんかも透けて見えていて、力になってあげたくなるタイプの女の子ですね。やー、正直好みのヒロインです。年下×ツン×お嬢様、素晴らしい。
こういうタイプのボーイミーツガールって突飛なヒロインに凡人の俺が連れ回されるっていうのが定番だけれども、異能持ち・探偵・強気な年下お嬢様と要素モリモリにしてもなお、主人公の濃さの方が勝ってしまうな……。なんちゅー主人公じゃ。
そして主な語り手の恵拏俚。貧乏神でも心の底から清太郎の幸せを願ういいやつなんですわ。古めかしい語り口に少しとっつきにくさも感じますが、これはこれで味かな。
清太郎と叶絵だけだと話が全然進まないことも多いので、恵拏俚がいい具合の潤滑剤として働いてくれていますね。まあ彼女もわりとボケ寄りなので、叶絵のツッコミの仕事は増えてますが……(なお大抵ボケに負けている様子)。


叶絵や恵拏俚とともに貧乏日常コメディをやっていたら、いつの間にか大きな事件が舞い込んできて。
事件解決に向けて動く中、叶絵が弱い部分を表に出したり、清太郎の気持ちが動いていったりと、一緒に行動するうちに二人の関係性が少しずつ変わっていくのが見えてきたのが良かったです。
それにしても、最後にここまで動くとは思わなかったけれど! 清太郎、なかなかどうしてやる時はやる男よ……。叶絵のお返しもお返しだけどな! 恵拏俚はよく平然と見ていられますね! 僕が貧乏神だったらニヤケを抑えられませんわー!
「スタートライン」に立った二人が、今後どんな風に歴史を重ねていくのか。ぜひ見てみたいものです。


イラストはNardackさん。いつもながら素晴らしい表紙力ですぞー!
あとベッドでぜんざいを飲む叶絵がかわいい。


茉莉亜の圧倒的天使ぶりに目が潰れそうです。