まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『西野 ~学園カースト最下位にして異能世界最強の少年~3』感想

西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~ 3 (MF文庫J)

ストーリー
学園カーストの中間層、冴えない顔の高校生・西野五郷は界隈随一の能力者である。文化祭を終えた彼は相棒マーキスの依頼を受けて、海外でのミッションに向かう運びとなった。時を同じくして、二年A組の面々も国外へ卒業旅行を企画。奇しくも同じ便で日本を出発した一同は、これまた偶然から同じ事件に巻き込まれて、異国の地で再会することになる。物語の舞台は学内から学外へ。教室という枠組みから外れたことで勢い付いた西野の言動が、ローズを喜ばせ、委員長のメンタルを削り、竹内君を苛立たせる。水を得た魚が如く動き回るフツメンの活躍が、彼と彼女の関係を一歩前進させる海外旅行編、テイクオフ。

裏世界最強のフツメンと変態金髪ロリータが織りなすカオスな学園ストーリー、海外旅行編。
海外に行っても全力で空回る西野、彼への重すぎる愛が暴走するローズ、そしてそんな二人に関わったばかりに事件に巻き込まれていくリア充たち。
学園カーストが機能しない海外で西野がこれでもかとばかりに活躍するのは痛快だけれど、その活躍ぶりは残念ながらリア充どもには届かないんだよなあ……切ない。


かねてから約束していた卒業旅行に竹内君から(渋々)誘われた西野。仕事とのブッキングでこれを断ったものの、たまたま行き先が同じ場所だったために話はどんどんヘンな方向へ。
西野の言動に一喜一憂するド変態ヒロインローズ……にこき使われる志水さんが不憫すぎる……。これまで彼女が西野にやってきたことを思えば自業自得とも言えなくもないけど、それにしたって偏執狂めいたローズにいちいち付き合わされるのはただひたすらホラーだ……。
そんな暴走特急・ローズは今回も可愛かったです。いや金髪ロリータに対する色眼鏡が多分に掛かっていることは認める。ごく客観的に見てローズが「キモい」のも認める。でもほら、愛が重い変態美少女って絵になるじゃん? 志水の前ではもはや本性を取り繕うことすらしなくなっていて笑いました。


リア充組とは別行動ながら単独でギリシャへと飛ぶ西野。ついでにたまたま出くわしたハイジャックもサクッと片付けちゃう。相変わらず顔と行動が不一致すぎるフツメンである。いやでも顔関係なくかっこいいだろ。かっこいいと思うんだけどなあ……ローズを除けば太郎助ぐらいしか西野を評価していないのが謎すぎる。
そんな西野の前に現れた強敵ガブリエラ。やったね、また変態美少女の能力者が増えたよ! みんな大好き銀髪ロリータだよ! この作品に出てくるヒロインは性に貪欲でなくてはならない縛りでもかけられているのか……まあそんなことはともかく、本格的な戦いはどうやら次回に持ち越しなようで、西野との正面衝突が楽しみ。
思いっきり話の途中でぶった切られているので兎にも角にも早く次巻が読みたいです。西野とローズの間で交わされた契約がどうなるかも気になるし、もうカクヨムの方で読んじゃおうかなあ。


表紙と扉絵のローズさん、ちょっと色々漏れちゃってますね……???

『やがて恋するヴィヴィ・レイン7』感想

やがて恋するヴィヴィ・レイン (7) (ガガガ文庫)

ストーリー
「楽園(エデン)が墜ちてくる」――。遂に起動したワールド・トリガー。三界を隔ててきた「壁」の消失が迫り、エデン評議会は飛行艦隊によるグレイスランド爆撃を決断する。ジェミニを説得するため旅立ったファニアはグレゴリオの奸計により再び窮地に。グレイスランド統一を目前に控えたジェミニは、ルカの死を知り心身に変調を来す。エデン飛行艦隊への奇襲をもくろむルカとヴィヴィは隠れ家での共同生活をはじめるが……。犬村小六が贈る、革命と戦争、恋と冒険の大叙事詩が、ついに完結!!

シリーズ完結。文字通り世界がひとつになろうとする中、迫りくるエデンの艦隊との最後の戦いが描かれる。
ルカ、ヴィヴィ、ファニア、ジェミニ。時に仲間であり時に敵であった面々が、それぞれの場所で思いを同じくして強大な敵に立ち向かう。嬉しいけれども少し切ない、複雑な思いが去来します。
でも最後にこの表紙が、「やがて恋するヴィヴィ・レイン」が見られてよかったな。満足の大団円でした。


ジェミニを説得するため共和国に舞い戻るファニアとミズキ。第一歩から躓いてしまってどうなるかと心配していたら思わぬ助っ人が。そうか、お前がいたか!
カミーユとの邂逅を経て、ただのお飾りでなく、確固たる信念を持ったリーダーとして再び民衆の上に立つ元王女。最高に格好良かったです。カミーユは、どこまでも他者に振り回され続けた男ではあったけれども、最後の最後で自らの理想に沿ったことを成し遂げることができましたね……。
一方、エデン飛行艦隊に備えて2人暮らしを始めるルカとヴィヴィ。角突き合わせてばかりの両者だけれども、なんだかんだいい雰囲気だったりしてニヤニヤしてしまう。この期に及んでラブコメですかこんにゃろう!(笑)


グレイスランドを支配するべく送り込まれるエデンの大艦隊。一方的な殺戮。しかし今回ばかりはそれだけでは終わらない。長年空から踏み潰されてきた人々の逆襲が始まる。
大軍を率いて戦ったあの頃とは打って変わって、こちらの戦力はルカとヴィヴィ2人だけ。周囲を敵に囲まれ、いつ終わるとも知れないギリギリの戦い。そんな極限状況の中で、心の中まで繋がることの心強さ。
それでも追い詰められてしまったとき、ずっとルカのことを追い求めてきたあの男が見せる最後の華。おいおい、いいとこ持ってくじゃねえか……。想像とはだいぶ違う形だったけれども、約束は叶ったな。
ルカによる一撃の前の口上、ちょっと震えてしまった。何度も底から這い上がってきた彼だからこそ言える台詞だなあ。
終章、収まるべきところに収まったというか、納得の終わりで良かったです。ファニアはむしろこれからが戦いの時かもしれないけれども、彼女らしくまっすぐに頑張ってほしい。きっと遠くで誰かが見守っている。


ルカとヴィヴィの旅路を淡々と描く番外編読みたい……。

『小説の神様 あなたを読む物語(下)』感想

小説の神様 あなたを読む物語(下) (講談社タイガ)

ストーリー
あなたのせいで、もう書けない。親友から小説の価値を否定されてしまった成瀬。書店を経営する両親や、学校の友人とも衝突を繰り返す彼女は、物語が人の心を動かすのは錯覚だと思い知る。一方、続刊の意義を問う小余綾とすれ違う一也は、ある選択を迫られていた。小説はどうして、なんのために紡がれるのだろう。私たちはなぜ物語を求めるのか。あなたがいるから生まれた物語。

「だからね、この物語を書いてくれてありがとう」
上巻を読んでから首を長くして待った1ヶ月。長い1ヶ月でしたが、ようやくこの本を読むことができると、少し震えながらページをめくりました。読みました。最高でした。
小説にまつわる、苦しいこと、切ないこと、理不尽に思えてしまうこと。楽しいこと、喜ばしいこと、思わず笑顔になってしまうようなこと。物語というものに対しての、書き手としての、読者としての、さまざまな思いがぎゅぎゅ、っと詰め込まれていて、どれもこれも共感できてしまって、ため息が出ちゃう。
作者の叫びのようにも思えるあれやこれやが、胸をえぐってきます。小説に関わる全ての人が幸せであればいいのに。せめて自分くらいは、いい読者でありたい。真摯な読者でありたいなあ。


真中さんとの再会を経て、すっかり自己嫌悪に拍車がかかってしまった成瀬。そんな彼女に物語を読むことの喜びを思い出させてくれたのは、リカの取り巻きの一人・ユイちゃんでした。
初めて小説を読んだという彼女の、無邪気に物語のことを語る笑顔! 友達と同じ本のことを語り合う楽しさ! そうだ、小説は一人で読むものだけれど、みんなで楽しめるものでもあったんだ。忘れてしまっていた。物語を通して人と繋がるということ。何物にも代えがたいこの喜び。
成瀬は自分の世界に閉じこもりがちで、うじうじと一人で抱え込んで、勝手な思い込みで爆発してしまったりもする子だけれど、そういう部分はきっと誰しもが持っている。彼女の場合は、気づかせてくれる友達が近くにいた。ちょっと、内の物語に向けていた視線を、外に向けてみるだけでよかった。
物語は彼女を追い詰めてばかりいたようにも思えたけれども、そうじゃなかった。そのことがまるで自分のことのように嬉しい。救われた気持ちになりました。


一方、続刊の是非について小余綾とすれ違い続ける一也。近づいたり離れたり、ちょっと前に進んだかと思ったら元の場所に戻っていたり、まったくしょうがない二人である(苦笑)。
すれ違うというのは、お互いのことが分かっていないということで。一見して距離が縮まっていても、逆に意見は割れてしまったりする。人間という物語は本当に難しい。
でもだからこそ、相手の物語を読もうとする行いはとても尊くて素敵なことだと思います。それは怖くて勇気のいることかもしれないけれども、きっと、とても価値のあるものです。本当に大切な人に対しては、自分の物語をさらけ出して、相手の物語を読もうと努力したい。この作品を読んでいると、そうする勇気が湧いてくるような気がするから不思議です。
一也と小余綾がようやく見出した、続刊を書く意義。気付いてみれば当たり前すぎるくらいに当たり前だった、ある意味陳腐な結論だけれど、一読者としては拍手喝采を贈りたい。
作者の思いが必ずしも読者に届くとは限らなくて、同じように読者の思いも作者に届かないことはある。だから、読者の切実な思いに気付いてくれた作者には、全力で感謝を届けたい。そんな思いで、今回の出だしは小余綾詩凪の言葉を借りさせてもらいました。
まるで自分のために書かれたように思える本。奇跡みたいな出会いをしたと信じられる本。この作品は僕にとって、間違いなくそう思える大切な本の1冊になりました。
だからこそ言います。続きが読みたい。読みたいなあ。文化祭が結局どうなったのかも、一也と小余綾のラブコメの行く末も、千谷一夜の新作も、気になって仕方ないんだ! いつまでだって待ちますから。続きを。お願いします。


それにしても表紙が素晴らしすぎる。うちの本棚にもう少しスペースがあれば並べて面陳するのになあ!