まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『エートスの窓から見上げる空 老人と女子高生』感想

ストーリー
超絶ネガティブ、だけど心の中は元気いっぱいな女子高生の瀬宮憂海と、ひょんなことから秘密を共有することになった老教師の豊橋厳蔵。二人の昼食時の話題はいつも学校で起こる小さな謎! すべてを見透かしたような態度のジジイに対して、憂海は推理を披露するのだが――!? 果たして彼女は学校一美人の先輩が抱える悩みや部室密室事件の謎を解決することができるのか!! ジジイとJKの甘くも酸っぱくもない青春謎解き相談はじまります!

第19回えんため大賞<特別賞>受賞作品。
変態女子高生と変態じいさんがJKの太ももを変態的に見上げて悦に入るというコアすぎる青春模様をぬふぬふと楽しんでいたらいきなり謎解きが始まって「なんだかわかんないけど日常ミステリーきたー!」とテンション爆上げになりました、どうも僕です(まる)
フェチの詰まった太ももの描写も、主人公JKの不器用すぎる生き方も、なんだか憎めない老先生のウイットに富んだ台詞も、どれもこれも愛おしく感じてしまう不思議な魅力の詰まった作品でした。なんだか性癖(本来の意味の)を撃ち抜かれた感じがするー。すきー。


憧れのお嬢様女子校に入学したはいいものの友達もできずぼっち街道をずんずんと進んでいる主人公の憂海。
いい具合にぼっち飯を食う半地下空間を発見したと思ったら、その廊下からは外を歩くJKたちの太ももが観察し放題だった! さらには憂海と同じくJKの太ももをこよなく愛する先客(豊橋源蔵・老教師)がいて……という、出だしからツッコミどころ満載の舞台設定が楽しい。
メインキャラクターの2人がぼっちJK(太もも好き)と老講師(太もも好き)ですよ? どの層に向けたエンタメやねんと笑ってしまいましたわ。
ぼっちなんだけれどやたら鬱屈してたりするわけでもなく、同士となった豊橋先生相手に丁々発止のやりとりを繰り広げる憂海のキャラクターがとても好きです。自分の欲望に忠実すぎるところも最高。JKに興奮するJKって完璧な存在じゃない? もはや世界の理じゃない? 僕はそう思う。


豊橋先生との「例の廊下」での毎日の中で、なんとなく話題に上っていく学園内の謎。それは憧れの先輩の奇行だったり、摩訶不思議な人物消失事件だったりする。
それらの謎に積極的に挑まんとする憂海と、あくまで理知的に、そして保護者としての視線をもって、憂海にも謎自体にも包み込むように接しようとする老教師の対比が美しい。
謎がひとつまたひとつと解き明かされる中で、憂海自身にも新しい友人関係が生まれたり、過去の後悔を乗り越えたりして、一歩ずつ前に進んでいく姿に一読者としても勇気づけられる部分があります。
憂海は太ももフェチの変態さんだし憧れの先輩のためならストーカー的行為もナチュラルにこなしちゃうし何かと自分を卑下しがちだし大変に面倒くさい思春期全開ハイスクールガールだけれども、ちゃんと人を思って人を心配することのできる人で、だからこそ安心して見ていられる。
豊橋先生への意趣返しのようなラストの謎解きには胸がほっこりしました。あー、いいもん読んだわー。とても素晴らしい読後感だったのでぜひとも続きを読みたいなあ。


イラストはエナミカツミさん。表紙の憂海の表情が真剣すぎて笑ってしまう。
あとジジイの笑顔、すげえ落ち着くやんけ……。


憂海と倉斗先輩がひたすらイチャイチャ遊園地デートする回はよ。

『変態王子と笑わない猫。12』感想

変態王子と笑わない猫。12 (MF文庫J)

変態王子と笑わない猫。12 (MF文庫J)

ストーリー
「わたしと、ピクニックの仲間を集めに行きましょう」……一本杉の丘で再び出会ったぼくと月子ちゃんは、手を繋いで歩き出す。大切な人を、かけがえのない思い出を、きっと取り戻すために。横寺くんノート(著&脚色・筒隠月子)に基づき、ゲーセンで遊んだり勉強会をしたり、いちゃいちゃアニマルタイムを繰り広げたり、昔懐かしいイベントに奮闘するのだけれど――「月子ちゃんも早くすっぽんぽんノルマを果たさなきゃ!」「それもやぶさかではないですが」「なーんちゃって、……え?」――脱ぐ気いっぱい!? 大人気爽やか系変態青春ラブコメ第12弾! 何もかもが変わってしまった新世界で、それでも変わらない何かを探す最後の旅路が、今始まる――。

あー、終わってしまったー!!
「シリーズ全体のエピローグ」として位置づけられた今巻。寂しいけれど最終巻……ということになるのかな。
笑わない猫像を巡る一連の物語は終わり、新たに始まった世界での横寺と月子ちゃん、そして他キャラクターたちのあかるい姿を描くとともに、これから待っている素敵な未来を予感させてくれる1冊でした。
最後まで変なところでこだわってしまう月子ちゃんと、そんな彼女に新たな1ページを開かせる横寺、そしてまさかの新キャラの登場(!)と、最後まで見所たっぷりで大満足です。


世界が変わり、過去が変わり、これまでの11巻の物語は、11冊の「横寺くんノート」の中に記録として残るのみ。
前回間違いなくハッピーエンドを迎えたのは確かなんだけれど、これまで紡いできた出来事が全部なかったことになってしまったというのは、一抹の切なさを感じる部分でもあり。小豆梓とか、マイマイとかね。横寺との関係がフラットに戻っているのを見ると、やっぱり残念な思いもある。
だから月子ちゃんが、横寺ノートの内容を振り返るようにしながら、元の世界での事件や関係性を再現しようと懸命になってしまった気持ちも、ちょっと分かってしまったり。
でも過去ばかり追い求めていてもしょうがないんだ。これまでのお話も素敵だったけれど、これからのお話も絶対に素敵に決まっているから。また新しく友達になって、ばかなやりとりで笑いあっていけばいい。なんだか、8年間追いかけてきた読者へのメッセージにも聞こえてくる。横寺はたまにいいことを言いやがる。ずるいです。


関係性は少し変わったかもしれないけれど、小豆梓も鋼鉄さんもエミもマイマイも、それぞれの魅力を改めて見せてくれました。
特に小豆梓(わんこ)は、やっぱりめっちゃ可愛いんですわ! 永遠の愛されキャラ、天性のヒロインですわ……さすが永遠の2番手や!(不憫)
鋼鉄さんはなんだか、めっちゃデキる先輩っぽくなっていて驚いたけれど、これが彼女の本来の姿なんだろうなと不思議としっくりきました。でも変なところで抜けてるのがやっぱり鋼鉄さんって感じ。彼女がいたからこそのこのエンディングだったんだよなと本当に思います。
エミ。最初に出てきたときはなんだこのキャラと思ったけれども、今もわりとなんだこのキャラと思ってます(笑)。1人だけ特殊な立ち位置にいるよね。でも結構好きやで。これからもよーとおにーちゃんのセクハラに負けずがんばってほしい。
マイマイ! 可愛い! 推し! 某イベントでさがら先生に直接「副部長が好きです!」って伝えたのを思い出します。あの頃はまだ名前すら付いていなかったのに、こんな風にヒロイン陣の一角として名を連ねるようになるとは感慨深いものです。それだけの魅力を秘めたヒロインだった。踏んでほしい。
そして圧倒的正妻たる月子ちゃん。せっかく本音を取り戻したのになかなか表情を見せてくれなくて心配に思っていたのだけれど、最後にようやく泣き顔を、そして笑顔を見せてくれましたね。僕はこの笑顔を見るためにこの作品を読んでいたのだと思うよ。
改めて、最後まであかるくたのしいラブコメディを見せてもらいました。まさかのタイミングでの新キャラについても「最後の最後にまたやりおったな!」という感じで、笑わせてもらいました。エンディングまで読めて良かったです。あとがきにあった「幸せな短編集」とか、ちょっと期待しちゃうんだからね。またね。


さあ、横寺くんノートから新キャラの伏線をさがさねば(ほんとにどこだよ……)。

『裏方キャラの青木くんがラブコメを制すまで。』感想

ストーリー
理想の恋愛なんて、現実にはなりえない。日陰作家のぼくにできるのは、妄想満載の小説を書くことくらい。なのに――「私に恋を教えてください、先生!」そんなぼくを恋愛マスターと勘違いした、演劇部のヒロイン・綾瀬マイ。理想の恋愛を実現するため、綾瀬さんとのラブコメ研究が始まって、「恥ずかしい台詞とかあっても……頑張りますから!」あくまで演技指導だからね!? 脇役未満の“裏方”から挑む、青春ラブコメ攻略論!

作家の卵だけれど学校では没キャラな主人公が、演劇部のエースにして学校のヒロインと噂される女の子に恋をして、身分不相応な気持ちに思い悩む学園ラブコメディ。
演劇部の脚本家として、好きになった女の子の恋愛劇を見ていることしかできない主人公の、諦め混じりの恋。それでも消せない気持ちに懊悩する姿が、直球の青春でとても良かったです。
文章もなかなかに魅力的で、描写のそこかしこに作者のセンスを感じました。印象的な台詞が結構あります。


編集者はついているけれどデビューはしていない、そんな作家もどきの高校生・青木。高校の入学式の日に一目惚れに落ちる。
まずこの一目惚れのシーンがとてもいいですね。2~3ページしかないプロローグの一場面で、ヒロイン・綾瀬との会話やイベントがあるわけでもないんだけれど、好きになっちゃったのがわかる。人を好きになるときって、得てしてこんなもんだったりするのである。
演劇部のヒロインとなり、学校中の人気者となった綾瀬。そんな彼女がある日突然青木のもとへやってきて、「恋を教えて欲しいのです」とかのたまう。
普通ならば、片思いの相手とお近づきになれて喜ぶところなんでしょうが……表舞台に立つ彼女と、あくまで裏方でしかない自分とでは到底釣り合わないからと、恋仲になるのは初めから諦めているようなところもあって。いやめっちゃわかる。めっちゃわかるんだけれど、綾瀬は明らかに青木に興味を持ってくれているのに、自分から勝手に一歩引いちゃうあたりが、とてももどかしい。


演劇部の脚本家となった青木は、ヒロイン役である綾瀬と、主演であるイケメン・高良の演じる恋愛劇を毎回見せられることに。
あー! このシチュエーションすごいもだもだするー! 学年一の美少女とイケメンの、誰もが認めるカップル。そんなふたりが自分の描いた脚本のもとで恋をする。切なすぎて胸がぎゅっと痛くなっちゃう!
傍目からすると、青木と綾瀬はかなりいい感じだと思うし、逆に綾瀬と高良の関係が特別近いようにも見えません。しかしだからといって、ザ主役系なイケメン(しかも人間的にもめっちゃいい奴)に自分が勝てるとは到底思えず、むしろ綾瀬と高良が付き合うのは当然とさえ感じてしまうというのが……わかる、わかるぞ。
挙げ句には高良本人から綾瀬への恋心を打ち明けられて、脚本で告白の手伝いまで頼まれてしまうのですが……そんなん書けるわけないやろがい!!
スランプに陥り、どんどん暗くなっていく青木。そんな彼の背中を、かなり乱暴で無茶苦茶なやり方で押してくれる数少ない友人たち。
主役は主役としか恋しないなんて、そんなばかなことあるものか。走れよ少年。まっしぐらに。君にはラブコメの神様がついている。
物語は綺麗にまとまっているのですが、この先のお話も読みたくて仕方ないです。続いてくれないかなあ。続いてくれるといいなあ。


イラストは前屋進さん。綾瀬の笑顔が眩しいぜ……。
P292~293のイラスト演出が最高でした。


「デートっていうのは女の子がワンピースを着て初めてデートなんだよ」って台詞は天才かと思った。