まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

とある飛空士への誓約1

とある飛空士への誓約〈1〉 (ガガガ文庫)

とある飛空士への誓約〈1〉 (ガガガ文庫)

ストーリー
空の一族ウラノスの空襲によって家族と故郷を失った少年・坂上清顕。
幼なじみ・ミオと共に士官学校へ入った清顕は、各士官学校の代表七人による親善飛行のメンバーに選ばれる。
メンバーはいずれも才能のある士官候補生だったが、ウラノスの強襲に、名も知れぬ島への不時着を余儀なくされて……。



飛空士シリーズの新作。出ると聞いたときはまだ続ける気なのかと思いましたが、読めばこれがまた面白いもんで、もう何も言えません。
主要登場人物は7人。シリーズ最長の群像劇(カバー折り返しより)になるそうで、『恋歌』が好きな身としては、今からわくわくが止まらない次第です。
早速思わせぶりな謎と伏線が放り込まれまくっていますが、やはりこの7人のキャラクターに隠された秘密が、今後の展開の要になってくるのでしょうね。


セントヴォルトと秋津連邦、ふたつの大国から選出された士官候補生7人。
ただでさえ国が違うのに、それぞれの信念と思惑を持って参加している個性派揃いだから、最初からうまくいくわけもありません。
それどころか親の仇の子供同士が乗り込んでいたり、第3の国のスパイが紛れ込んでいたりと、表面的にも内情的にも爆発寸前の状態。腕はそれぞれ確かなものを持っているけれど、こんな雰囲気の悪そうな飛空艇には、ちょっと乗り込みたくないですね。
そう、飛空艇ですよ。今回主人公たちが乗るのは、7人で操縦や偵察、電信といった役割を分け、共同で動かす飛空艇なのですね。
これまでのシリーズでは1人か2人で動かす戦闘機や偵察機が主に使われていただけに、今回の空の旅はなかなか新鮮で、同時に少々不安でもありました。
いや、だって、今までこれくらいのサイズの飛空艇といえば、敵味方問わず戦闘機たちの格好の的で、基本的に落とされ役みたいなところがあったじゃないですか。
単座や複座の飛空機に比べるとどうしても動作も鈍重になってしまうし、スピード感も薄れちゃうから、基本的に戦闘描写には向いていないんじゃないかと思ったんですよね。空戦がこのシリーズの一番の見せ場みたいなところは、どうしてもありますからね。
で、実際にどうなったかといいますと、いやはや、大変満足のいく空戦でございました。甘く見ていて申し訳ありません。
もちろん、今までの空戦みたいに、素早い旋回や度肝を抜く機動なんかは出てきません。やはり、飛空艇というのは基本的に逃げ役なのですね。
砲門はあっても戦闘機に対しては優位性がなく、だからこそ必死で逃げなければならない。追い込まれたら落ちる。だから追い込まれないように、7人が力を合わせて脱出をはかる。戦えない分だけあって、迫力満点の逃げっぷりだったと思います。


シリーズの大きな柱のひとつが空戦ならば、もうひとつの柱はやはり人と人とのドラマでしょうか。
「序」まで読んだ時点では、清顕とミオが主人公とメインヒロインだとばかり思っていたのに、振り返ってみると、あれ、意外とそうでもない?
そもそも表紙にイリアを持ってきている時点で察するべきでした。ああ、1巻のヒロインはイリアだ……ミオったら、なんて不憫な子……。
やっぱりですねえ、父親同士がかつての戦争で戦った相手で、最初から仇と認識されていて、なんていうのは、恋愛ドラマを盛り上げる大きなリードだと思うのですよね。
そりゃあ、小さな頃に約束を交わした幼なじみというのもかなりのアドバンテージではありますが、今回はボーイミーツガールが一歩勝ったかなと。清顕とイリアが同じ操縦担当だったというのも大きいかもしれません。
ともあれ、まだまだ物語は始まったばかりなのですから、これからミオにも巻き返しの機会が待っているだろうと思います。頑張ってもらいたいですね。


今回は7人乗りの飛空艇での旅となりましたが、親善飛行も終わったということで、今後は戦闘機での空戦も出てくるのではないかと予想されます。
まずは新たな士官学校で、7人にどんな日々が待ち受けているのか。紛れ込んでいる2人の重要人物は、果たして何をしでかすのか。
清顕とイリア、ミオの今後はどう移り変わってゆくのか。そして交わされた「誓約」の意味とは。
ああ、早く先を知りたいような、知るのが怖いような、複雑な気持ちです。
とりあえずは、次の巻が待ち遠しいですね。楽しみ。


まだ既存シリーズとの関わりは見えてきませんが、どうやら『恋歌』からの流れがなにやらあるようで……。