まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

マグダラで眠れ

マグダラで眠れ (電撃文庫)

マグダラで眠れ (電撃文庫)

ストーリー
人々が新たなる技術を求め、異教徒の住む地へ領土を広げようとしている時代。
錬金術師の青年クースラは、研究の過程で教会に背く行動を取ったとして、戦争の前線の町の工房に送られることになる。
工房に辿り着くと、フェネシスと名乗る白い修道女が監視員として派遣されていて……。



支倉凍砂先生が新作を出した! これはもう、一も二もなく飛びつくしかない。
前作に続き、中世ヨーロッパを彷彿とさせる舞台設定ですが、今度の主人公はなんと錬金術師です。
錬金術といっても、魔法を駆使して鉛を金に変えたり、賢者の石を作りだしたりなんてことをするわけではありません。
たとえば鉄を精錬するのに、どうやったらより効率的に低コストで行うことができるのか、なんていうことを研究する職種ということらしいです。歴史上の錬金術師もこういうことをやっていたんですかね? 分かりませんけど。
ただ、誰の皿に毒を盛ったとか、誰の恨みを買って殺されたとか、物騒な話ばかりが飛び交っているので、少なくとも、怪しげな職種だということは確かなようですね。
そんな錬金術師と、ひとりの無垢な修道女の出逢いから始まる、陰謀うごめく中世ファンタジー。面白かったです。


それにしても、改めて目を見張らされるのは、この時代背景の作りこみ様。教会と騎士団と商工会が権力を握り合い、職人たちは組合を作って職分を守り、運営されるひとつの町。
街並みや食べ物、服装に至るまで、不自然さや疑問の入り込む余地がないほどに作りこまれているから、まるで本当に中世の町をクースラと共に歩いているかのような気分になってきます。
錬金術=冶金の作業の様子も細やかに描かれていて、フェネシスでなくともついつい見入ってしまいます。
読者をすっと物語世界に溶け込ませてしまうこの描写の妙には、さすがと唸らざるを得ませんね。


一歩間違えれば殺されてしまう、危険と隣り合わせの職業・錬金術師。
クースラやウェランドの相手をおちょくるような態度は、他人を油断させるためのものなのでしょうか。逆に、生来そういった性格だったからこそ、錬金術師なんて職業に就くことになったのかもしれませんが。
ともかく、そんなクースラたちと、清き幼き修道女・フェネシスとの出逢いはなかなかに衝撃的なものでした。
ここでウェランドに先を越されてしまったことが、クースラの運命を決定づけたのかもしれませんね。そう考えると、いやいや、ウェランドはよくやってくれましたよ。心情的には絶対に許さないけどな!
出逢い方は最だったけれど、長く一緒にいるにつれて、いつの間にやら距離が近づいていくクースラとフェネシス。
初めのうちこそ、何も知らない子ども(フェネシス)が悪い大人(クースラ)にいいように操られているようにしか見えなかったのですが、振り返ってみるとむしろ、フェネシスの方がクースラを圧倒していたように思えてくるから不思議なものです。
情にほだされたというやつですかね。錬金術師も人の子だったということか。まあ仕方ないですよね。フェネシスさんったら、めちゃくちゃ可愛いんだものね。修道女なのにそんな、男心をくすぐることばっかりやってたら神罰が下りますよ!


フェネシスの秘密にはやられました。ああ、そういうことでしたか。先生も好きですねえ。
ひとつの事件が終わったけれど、物語はまだ始まったばかり。ウェランドには軽口を叩かれていたようですが、フェネシスはクースラのマグダラになりつつあるのでしょうか? フェネシスの方は、彼のことをどんな風に思っているのでしょうか?
その答えは、きっとこのお話の先に待ち受けていることでしょう。次の巻が待ち遠しいですね。


イラストは鍋島テツヒロさん。カラーモノクロ問わず、イメージばっちりのイラストでとても良かったです。
しかし、なんだ、ああ、フェネシスは可愛いなあ!


イリーネさんの再登場に期待。