まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

クドリャフカの順番

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)

ストーリー
手違いで文集「氷菓」を作りすぎてしまい、頭を抱える古典部一同。
文化祭の3日間で200部を売り切るべく、千反田や福部は宣伝活動に走る。
一方、文化祭に沸く学内では、演し物をする部活を狙った奇妙な連続盗難事件が起きていて……。



2巻まで読んでおけば第1話は大丈夫だろうと思って原作既読者を気取っていたら、短編集であるらしい4巻の内容が入っていてノックアウトされた私です。何って、もちろんアニメ「氷菓」の話ですとも。なんという不意打ちでしょう。
悔しかったので2話までには文庫分を全部読んでやることに決めました。ということで今回は第3弾「クドリャフカの順番」になります。


文集「氷菓」と何かと因縁の深い神山高校文化祭、通称“カンヤ祭”のお話。今回の英副題は分かりやすいですね。
今までと違うのは、一人称の視点が奉太郎からだけではなく、古典部4人の間を行ったり来たりしているところ。
初めは少々混乱しましたが、すぐにこの描き方が「お祭り」にぴったりだということに気付かされました。
いやあ、楽しいのです。これだけ大きな文化祭となると、主人公ひとりだけでは見られない部分がどうしても多くなります。その主人公が奉太郎なら尚更ですね。
でも、動かない奉太郎の分まで千反田や里志、伊原が走り回ってくれるので、文化祭の中身を存分に楽しむことができました。特に里志などは、活力に溢れた語り口が新鮮ですね。
ひとつの時間をみんなの視点から追っていくというのは、これまたいいものです。
視点移動を繰り返しているとどうしても多少の時系列のずれが出てくるのだけれど、4人が一堂に会するとき、すなわち何か重大イベントが起こる前などでは、一気に全員の視点が同じ時間へと集まるわけですね。
すると、これから何かが起こりそうだというワクワク感が、こう、ムズムズとひたひたと湧き上がってくるのですよ。早く真相が知りたくて居ても立ってもいられないような。これこそ「わたし、気になります」マインドなのかもしれません。


今回の古典部の最終的な目的は、料理大会に勝つことでも、漫研のいざこざを解決することでも、不思議事件の犯人を取っ捕まえることでもなく、大量の文集をできるだけたくさん売ること。それだけでした。
それだけなんだけれど、あの手この手でなんとか売り上げを伸ばそうをする中で、結局それらに関わることになってしまうんですね。涙ぐましい営業努力というやつですか。
このあたり、古典部全体にも奉太郎の巻き込まれ体質を彷彿とさせるところです。もちろん、巻き込んでいるのは千反田だし、里志あたりは自分から喜んで巻き込まれに行っているのですけれども。
古典部の宣伝のために盗難事件を調べることにした奉太郎たちですが、特に関係がないと思われたあれこれの出来事が、いつの間にか事件を解く重要な鍵になっていて驚きました。ううむ、お見事という他ありません。
特に、わらしべプロトコルは良かったですねえ。これがあるおかげで、ヒントの提示がずっと味わい深くなったように思います。
まるで見えない手に操られていたかのような都合の良さ。まさか全てお姉様の思惑通りということはないでしょうが……。あの人ならやりかねないと感じさせるあたり、まったく空恐ろしいキャラクターです。


奉太郎の視点からでは知ることのできなかった、里志や伊原の意外な一面なども見ることができて楽しかったです。
え、千反田ですか。彼女はおおよそ見た目通りの内面でしたね! いや、彼女はそれでいいのです。いつまでも純粋で分かりやすい君でいて。
漫画の「面白さ」論や、「期待」ということばの意味についての一件など、ちょっとした哲学談義みたいだったけれど、そのあたりも興味深く読みました。
それは今まで考えもしなかったような考え方で、でもそれなりに説得力があるのですね。
人にはそれぞれ違った意見があるものですが、そんな考え方の多様さが物語の中にあるというのは素晴らしいことだと思います。なぜならそれこそ、キャラが生きているということだと思うからです。
文庫化されているうちで残されているのは「遠回りする雛」のみとなりましたが、次巻でも色んな考え方を秘めたキャラたちが、これでもかとばかりに騒いでくれるのだろうと期待しています。


今回の謎は、考えれば多少は推理できそうだったけれど、フリガナが一度しか振られない文庫の仕様にやられました……。